「なになに戦隊なんとかレンジャー
        〜砂浜の出逢いに仁義無し〜」

潮風が心地よい初夏の海。
絶好の釣り日和だが、このC県I吠埼の堤防には釣り人はおらず、そのかわりに、
「あんたもヘタに首つっこんでなきゃ、セメントと一緒に海に沈むことにはならなかったろうにな。」
「俺たちを恨むなよ。ボスの命令は絶対だからよ。」
黒塗りのミラジーノ、黒服の男二人、セメント袋、そして、ドラム缶の中にはロープで縛られている一人の女性。
「ドラム缶にコンクリ詰めなんて、あんたたちの上司も相当発想が古いわね。」
「ちゃんと選ばせてやっただろ。溺死か、毒薬か。」
「毒薬なんて、選びたくもないわ。何かの化学反応で体は子供、頭脳は大人になったらどうしてくれるのよ。」
「じゃぁ、発想の古い死に方で我慢してもらうしかねぇな。」
セメントをねる手が止まった。
確実に死は迫っているのに、彼女は死ぬ気がしなかった。それは、まだ生きていたいという願望故か、
それとも―――
ちょっと待ったぁ!!
突然の声とともに何かが飛来して、ドラム缶にセメントを入れようとしている男の手に当たり、取り落としたシャベルが音を立てて地面に落ちた。
「・・・ビート板・・・?」
自分の手を打った それ に目をやり、それから、今まさに陸に上がろうとしている者たちに男は目をやった。
なんとかレーッド!!
なんとかブルゥ。
なんとかイエロー!
・・・なんとかブラック
びちゃびちゃと水滴をまき散らしながらひとりづつポーズを決め、
五人そろって、なになに戦隊なんとかレンジャー!!
「・・・ひとり、足り無くない?」
女性の指摘に、四人はハッとした。
「グリーンがいない!!」
「あそこ、溺れてる!」
イエローの指す先で、なにか緑色のものが沈みかけている。
すぐさまブラックが飛び込み、沈没寸前のグリーンを救出した。
「大丈夫か!どうしてこんなことに・・・」
激しく咳き込み、九死に一生を得たグリーンは、気遣いの言葉をかけるレッドを、憎しみを込めた目で睨んだ。
「君が、僕のビート坂をひったくって、あの人たちに、投げつけたからだよ」
「あぁ、そうだっけ。それはすまなかったな。」
「ったく・・・だから海からの登場なんて嫌だったんだよ。僕のおじいちゃんもひいおじいちゃんも、みんな海で溺れ死んだんだ。
「まぁまぁ、元気出せよ、グリーン。海も悪くは無いぞ?イソギンチャクとか・・・ウミウシとか・・・」
言いつつ、イエローはふらふらと歩き出した。
「海洋生物が俺を待っている・・・魚を食べると・・・頭が良くなる・・・」
何かに取り憑かれたかのように、岩場で思うさま磯遊びをはじめる彼を誰も止めはしなかった。
「さて・・・と。」
おもむろにブルーは二人の男に向き直り、ブラック、グリーン、レッドが退路をふさいだ。
「運の良いことに本日の敵は二名のみなので、貴方がたは死因を選ぶことが出来ます。」
ブルーのやんわりとした言葉に、犯罪組織の下っぱである彼等は死の恐怖を覚えた。
A・焼殺 B・刺殺 C・斬殺 D・銃殺 ・・・ファイナルアンサー?」
ブラックの希少な冗談に笑ったのは彼自身のみであった。

「サツはいないな?」
「そうみたいだよ。」
「早く引きましょう。ぶちこまれたら脱出するのが面倒ですから。」
「イエローは?」
「放っておきましょう」
詳しくは書かないが、男二人の息の根を止めた後、レッドは女性を助け出し、ブルーはドラム缶その他色々を海に捨て、グリーンとブラックは男たちの乗ってきたミラジーノをピッキングしてエンジンをかけ、残りのイエロ−を抜かす三人に乗るように促した。
「ちょ・・・私も?」
「あぁ。目撃者の口は封じて置くようにと、この前上から言わ」
「私たちの基地で怪我の手当てを致しますよ。」
レッドの口にした物騒な事実をブルーはすばやくさえぎった。
ミラジーノの車内は狭かったので、レッドが屋根に腹ばいにつかまって、ようやく車は走り出した。

無事基地に付き、女性は四人と別れ、応接室に通された。
怪我の処置が終わると手当てをしてくれた女性職員は退室し、入れ違いに青年が一人入ってきた。小柄で幼い顔立ちをしている。
「だいじょおぶですか?」
声で、彼がグリーンだということがわかった。
「えぇ。本当に、なにからなにまでありがとう。」
「なんで・・・あんな目に?」
話すか話すまいか、女性は少し躊躇したが、話すことにした。
「偶然、麻薬の取引現場を見ちゃってね、ついデジカメで撮影して、サイトにアップしてみたのよ。」
「あのサイトの管理者、あんただったのか。」
不意の声に目を向けると、戸口に男が一人立っていた。
後ろで一つに束ねた長い髪と、額に巻いたバンダナが、この切れ長の瞳の美青年を浮世離れしたものにしている。
「ブラック、知ってるの?」
ブラックは頷き、グリーンの隣に腰掛けた。
「ネット上で、かなり話題になった。」
「なあ姉さん、オレたちの仲間にならないか?」
そう言って、ウォーターダンベル片手に入ってきたのは見るからに根の明るそうな青年。その大きな声でレッドだということがわかる。
「仲間って・・・私が?」
何をまた馬鹿げた事を。
レッドの笑顔は、彼の背後から現れた青年の一言で打ち消された。彼がブルーであることは明らかである。
そして、彼のその美貌に彼女は一瞬にして心を奪われた!
「どのへんがバカげてるってンだよ!」
「どの辺が・・・なんて、特定できるはずも無いだろう。」
彼の婉曲的な悪意は、レッドには決して届かないことをブルー自身よく知っている。
「でもブルー、僕もレッドに賛成だよ。六人になれば一人いなくて良いわけだから、シフトが組めて、週休二日になるよ。」
ブルーは、グリーンの言うこと、というよりレッド以外の言うことはきちんと聴く。
「それに、ブラックは毎年必ず夏と冬に3日ずつ休みとるし、イエローは時々ふらっと一人旅に出ちゃうしさ。そーいう時、四人でキツかったじゃん。」
グリーンの隣で、ブラックも賛同している。
「それにさ・・・やっぱ夢だろ、女子隊員!な!!」
「なにが“な”だか。それはセクシュアルハラスメントだということを君は知らないようだね。」
やはりブルーは、レッド以外の意見には耳を傾ける。
「なんだよ、なんだよ!オレはおまえと違って女の子が好きなんだよ、悪いか!!」
「それはそうと、本人の同意がなければ私たちが幾ら希望をいったところで徒労に終わりますね。」
「おい!聞いてんのか!?無視するな!!」
うるさいだまれ。・・・貴女は、如何ですか?」
「え・・・あた、あたし?!」
ずっとブルーに見とれていた彼女は、突然のことに赤面しながらも、なんとか真っ白な頭で返答しようとした。が、
「ただ〜いまー」
彼女の声は部屋に入ってきた男に遮られてしまった。
日に焼け、人の良さそうな顔をした青年で、片手にバケツをさげ、もう片方の腕でタオルに包んだ何かを抱えている。
「早かったね。」
「あぁ。走ってきたから。おみやげ、たくさんあるぞ。」
言って、グリーンにバケツの中を見せる彼は、察するにイエローのようだ。
「イエロー、そっちは?」
ブルーが指したのは、タオルの包み。
「帰り道で・・・捨てられてたんだ。」
ゆっくりとタオルを解くと、一匹の、まだ生まれて間もない子犬があらわれた。
「うわぁ、か〜わいい!」
グリーンが歓声をあげる。
「ほっとけなくて・・・でも、俺ん家、アパートだし・・・」
肩を落とすイエローを見て、ブルーは名案を思いついた。
「6人目のレンジャーとして、ここで養ってもらってははいかがですか?」
「6人目?!」
イエローとグリーンがそろって声を上げた。
「えぇ。犬の能力は追跡にとても役立ちますし。」
「犬か・・・バイクのサイドカーに犬・・・いいな・・・」
さり気にブラックも目を輝かせている。
「そうだね!いい案かも。みんなでかまってあげられるし。」
「改造して、サイボーグ犬にするのはどうだ?メカドッグだぞ!メカドッグ!!」
ブルーはすばやくレッドに手刀を入れる。
「俺、さっそく上の許可もらってくるな!」
イエローは喜び勇んで応接室を出ていった。
そして、少しの間が空いて、今まで口を開けずにいた女性は、勇気を出して声をかけてみた。
「あの・・・私・・・は?」
「あ、ああ。さっきは無理言っちゃって、ごめんね。でも、もう、新しい仲間も見つかったし。これからは、危ないことに手をださないようにね。」
「おっ、帰るか?送ってくぞ。」
優しく、そして無神経なグリーンとレッドの言葉は、彼女をムカつかせるのに十分であった。
「・・・いい。一人で帰れる。」

そして――――

その日、麻薬取引現場写真で有名になったあるサイトに、以下の文章が載った。
仲間募集!
なになに戦隊なんとかレンジャーに恨みを持つ方はご一報を。

「みんなー!新しい仲間を歓迎して、今夜はカレーパーティーだ!」
「普段からあなたの夕食はカレーでは?」
「まあいいじゃん。この子の名前、何にしよっか。ね?ブラック。・・・どうしたの?」
「・・・なんか・・・入ってる・・・」
「おわ?!このカレー、イソギンチャク入ってんぞ!?」
「こっちはウミウシとヤドカリが入ってるよ!」
「・・・イエロー、これは何のつもりですか」
「何って、今日捕ってきた新鮮な魚介類だよ」
次の日から5日間、イエローは負傷のため欠勤したが、新しい仲間が加わったおかげで勤務に支障をきたす事はなかったのであった。
   

〜オハリ〜

もどる