「雪、まだ降るかな」
「それは神のみぞ知る、てヤツかね」
ケガレはココアをもう一口飲み、軽い調子で応える。
「早く止んでくれないと、物流にも支障が出るだろうね。来年の作物にも。
それに、僕と賢はいいとして、こう寒くては流が風邪を引いちゃうし」
ちゃんと着てるかい?と首を少し傾げて訊くケガレに、流は少しむすっとして頷いた。
この地域をこれほどの寒波が襲ったのは初めての出来事で、この家を含め街には寒さへの対策が備わっていない。
それ故に、屋内にいても寒さが骨身に沁みてくる。
とは言っても魔物は人間よりかは寿命も長く頑丈なので、賢とケガレはわりと平然としていた。
しかし、どうしてか流は寒さに弱いようで、普段よりも衣服を着込み、震えている。
それが流自身、腹立たしいというか情けない。
「薬剤師が、風邪など引いてたまるか」
半分すねながら呟く。
流は数年前から、近くの山野から薬草を採取し、それを調合しては薬屋に卸していた。
流の深い知識で作られた薬は効果が高く、良い評判を得ているが、いまだに街の住人は流のことを避けているため流の名は伏せて売られている。
「ま、雪が止むまでは家から出ない方がいいよ。薬草だって、雪の下で凍えてるだろうし」
この親はいい加減そうに見えて、結構自分の世話を焼いてくる、と流は認識している。
世話を焼く、といえば先程に限ったことでなく、ケガレはよくあの木の世話を焼くな、とふと思った。
「あの木って、なんなんだ?」
「何が?」
流に横に座るようスペースを空けつつ、ケガレは聞き返す。
「あの、うちの横に立っている木。ケガレはあの木を大切そうにしてるけど」
一瞬、ケガレは驚いたような顔で、隣に座る我が子を見、それから宙を仰いだ。
「うん…すごく、大切だよ。」
「前に調べた時に、あの木は、どの図鑑にも載っていなかったが」
あの木は何と言う木なんだ?という疑問に、ケガレは少し黙ってから、
「知りたい?」
「ああ。」
流の知能の高さは、貪欲な知識欲の表れでもある。
ケガレはまっすぐに自分を見る流と視線を合わせた。
「じゃあ」
一瞬、彼のにやけた顔が引き締まり、流はどきりとした。
「明日、教えよう」
言って、ニッと尖った歯を見せて笑う。
なぜ明日なのか。流が首をひねったそのとき、窓辺にずっとへばりついていた賢が歓声を上げた。
「ユキ、やんだよ!お日様がでてきたよ!」
それから賢は流に走り寄ると、その細い腕を取った。
「外にあそびにいこう!」
玄関の戸を開けると、冷たい風とまばゆい光が一気に二人にふりそそいだ。
いつも青々とした下草に覆われていた丘は真っ白な雪原となっている。
膝まで柔らかな雪に埋まり、初めて触る雪の冷たさに驚く流に、背後から雪玉がぶつかった。振り向くとケガレが満面の笑みを浮かべて立っている。
二人とは異なりケガレは雪を見るのは初めてではないらしく、色々な遊びを教えてくれた。
しばらくして、彼は突然、「少し出掛ける」と言い残し、背中の黒い翼をはためかせ、何処かへ飛んでいった。
賢と流はその薄青い空に消えてゆく姿を見送り、その後も、日が暮れるまで遊んだ。
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