雪の積もった丘の上。

生命の木の下で、賢は一人手を合わせている。

賢の前には小さな墓標。
全て灰になって消えてしまったケガレの、形だけの墓だった。

「おい」

頭上から声が掛けられる。
賢は木の枝に腰掛けたロゼを見上げた。

「帰ってきたようだ」

ロゼの右の人差し指の示す方向を見やる、と、空に何かが飛んでいるのが見え、次第に近づいてくるのがわかった。

それは3つの人影。
その真中の、両脇の天の遣いに支えられている姿は―――

「流ちゃん!!」

賢はちぎれんばかりに大きく腕を振り、地上に降り立った彼らに走り寄った。

流はひどく驚いた顔をし、それから賢を力いっぱい抱きしめた。これが現実であることを何度も確認するかのように。



流を運んできた天使は、あとからやってきたロゼの姿に気付き、彼の前に膝を付いた。

「生きていらっしゃいましたか」

「良くぞご無事で。さぁ、戻りましょう」

ロゼは二人を立ち上がらせ、そして言った。

「私は戻らない」


ΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨ


流と賢が旅立つ日が来た。

二人はケガレの墓に手を合わせ、それから生命の木―――流の母を仰いだ。



流が戻ってすぐに、ロゼはどこかへ姿を消した。
天の宮に戻らず、ゆっくりと世界を見る、と言っていた。

大丈夫か、と言った流に賢が声を掛ける

「大丈夫だよ、ケガレさんがついているんだから」



そして、今度は二人が旅立つ。

自分たちを育てた家と、木に、一度だけ礼をし、それから振り返ることもなく。
ふたり、肩を並べて―――



ある地で、魔物が天使を生んだ。

多くの人間や魔物たちが生き神をひと目見ようと集まったが、

夫とその子どもである人狼が二人を守り、

決して見世物にされることはなかったという。


終幕




この長い物語にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

お話はひとまずここで終わりです。
ですが、流や賢やロゼの人生はまだまだ続きます。
彼らの未来は皆様のご想像にお任せいたします。

拍手、感想などいただけるととても嬉しいです。


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