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「本当に、ありがとうございました!!」
そう言って自分の前で一斉に膝をつく天使たちを、流は困ったように見下ろした。
あれから夜通し皆で生命の木を照らし続け、樹木が新たな芽を覗かせたのは世が明けた頃。
完治とはいえないが、生命の木は死を回避し、そして天使たちもまた滅びを免れた。
「俺は俺のためにやっただけだ。感謝される義理など無い」
「それでも」
天使たちは微笑む。
「貴方は確かに私たちを救ってくださったのです」
何十もの頭が下げられ、流はあわてて面を上げるよう言った。
顔が紅潮しているのが自分でも分かる。
それが恥ずかしくて、流は踵を返し、その場から走り去ろうとした。
その背に、驚いたように掛けられる声たち。
「どこへ行かれるのですか?!」
その声たちには応えず、流はひたすら走った。
天使たちの声と共に、木々の、楽しそうに笑う声が聞こえていた。
門へ辿り着き肩で息をつきながら振り返ると、先ほどよりも多くの、おそらく天の宮にいる全ての天使が集まっていた。
驚く流に、天使の一人が進み出る
「帰られるのですね?」
悲しげな顔。
「ああ。ここに俺は必要ない。」
「…神からのお言葉です。『生命の木を救ったことを感謝する。天にとどまらぬことを残念には思うが、いつもそなたを見ている。助けを欲するときには必ず応えよう』」
「…そうか」
流は少しだけ口の端を上げた。
神にすがる日など、永劫に来ないだろう。
「あの、なにか、礼は、出来ないでしょうか?」
無い、と言いかけて、重要なことを思い出した。
「…では、俺の家まで送り届けてくれないか?」
背の翼は真っ白な、骨の翼に戻っていたから。
「はい!」
自ら進み出た二人の天使に両脇を抱えてもらい、流は天の宮をあとにした。
家に帰ろう。
帰ったらまず、賢の墓を作って、
荷をまとめて、
ケガレに別れを告げて、
新しい場所を探そう。
二人で決めた旅立ちを、
一人だけでも、しよう。
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