「あ、あの…?」
タクヤさんが、タクヤさんが俺の手を握っている!!
「…暗いとこダメで…すみません。こうしてて、いいですか?」
え
オーバーヒート寸前の脳味噌が一気に冷めて行くのを感じた。
初めて聞く、タクヤさんの声。薄闇の中の、タクヤさんの顔。
(たたたたたたタクヤさんて、)
半泣きの、儚げな表情。
(じょ、
じょ、
じょ、
女性??!!!)
ということは。
俺が心の師と仰いだこのお方は。
女性で。
男っぽい女性ということですかー?
そりゃ女顔だよ!
そりゃかっこいいわけだよ!!
あーもうこの人かっこいいよ!!!
脳内で大絶叫しつつも、歩は何とか笑顔をつくり、
「俺で、よければ。」
優しく答えた。その途端、
「え?」
タクヤさんの顔が引きつった。
「どーか、しましたか?」
「な、なんでも、ない」
声をしぼりだすように返事をして、タクヤさんは壁にもたれかかり、そのままずるずるとしゃがみこんだ。
歩も、首を傾げつつもそれにつきあいしゃがむ。
しばらく、無言が続いた。
「「あの」」
喋ろうと決意したタイミングは同時で。2人の声が重なり余計気まずい。
「あ、そちらから、どーぞ」
「いえ、お先に。言って下さい」
じゃあ…と歩はしどろもどろに言葉をさがしつつ、
「俺、衣川歩っていいます。萌盟学園の1年で…あの、あなたも、そうですよね?廊下で見かけたことがあって」
タクヤさんの顔を見ることが出来ず、歩は操作盤をずっと見ていた。つないだ手が、微かに動いた。
「うん……私も。萌盟学園。多久谷澪(たくや みお)っていいます。私も……私も、廊下であなたを見たの、覚えてる」
…え?
タクヤさん…いや、多久谷さんの表情は、薄暗くてよくわからない。歩は、うまく彼女の言葉を飲み込めなかった。
「すごく失礼な話なんだけど、私、あなたを見て、すっごい可愛いって思った。自分と同じように男の子っぽいのに、って。私も、あなたみたいになりたいなぁって思って。」
本当にごめんなさい、と多久谷さんは頭を下げた。それはすごく、相手の痛みを噛みしめた謝り方で。
なんだか…なんだか……さ…
「…俺も。」
「?」
「俺も、あなたみたいにかっこよくなりたいって思った。」
2人は、互いに顔を見つめ合い―同時に、吹き出した。
笑うしか、ないよな?
しばらくの間、エレベーター内に笑い声が満ちる。
「衣川君が着てたような服探しに来たんだけど、やっぱサイズ合わなくて着られなかった」
「あ、俺も。…なんか、本当に同じコト考えてたんだな」
「で、結果がコレ。変な話だね」
多久谷さんは再び笑いだす。その顔は、すごく可愛く見えた。
俺たちは、互いに、自分に無いものに憧れていた。
自分だけの、良さ?みたいなもんに気付かないで。
「…自分らしく、それが一番、なのかな」
多久谷さんも、同じことを考えていたみたいだ。それがまた、なんだか、妙におかしい。
「…だな。多久谷さん、すっげーかっこいいんだから」
「衣川君も、すごい可愛いよ?」
「う…」
歩がげんなりとした表情をつくると、多久谷さんは笑って彼の肩をぺしぺし叩いた。
「ウソうそ。男の子はね、25歳くらいまで身長伸びるんだよ?」
「マジ?…そいや、多久谷さんは何食って大きくなったんだ?」
それから2人は互いに馬があい、牛乳やらカルシウムやら中学時代のバスケ部の話など、色々な話をした。
実質エレベーターが止まっていたのは1時間そこらだったが、すごく濃度の高い、時間を過ごしたように思えた。
ようやくエレベーターから解放され、2人は店からの謝罪を受けた後、帰路についた。
「また、明日!」
という言葉を交わして。
■□■□■□
「…あ。」
風呂上がり。歩は毎日身長を計る。
「伸び…てる?」
確かに、2mm、昨日より伸びている。
「…よっ……しゃあぁぁ!!!」
盛大に喜びながら、明日、このことを多久谷さんに教えよう、と歩は考えていた。
〜おわり〜
〜あとがき〜
はい。お疲れ様です。
このハナシ、少し前に、漫画の原案として書いたものでしたが。
自分の絵柄じゃ描けないことに気付き、サイトにアップしてしまいました。
…だってよ、女の子っぽい少年と男の子っぽい少女だよ?
ずっと描いてたら、気が狂うさ!
読み物として読めるように手直ししましたが、
漫画っぽいノリはそーいうわけです。
読んでくれて、感謝です。
あわよくば、感想を下さると、めっちゃ嬉しいです。
2004.5.23 なま 拝
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