「なになに戦隊なんとかレンジャー
        〜黄金の食糧〜」

いつも通りヒマな「なになに戦隊本部」では、いつも通りイエローはカレーを作り、 グリーンは漢字パズルとにらめっこし、 ブラックはパソコン画面の向こうの美少女を愛している。
「そーいや、レッドとブルーはどこ行った?」
カレーの味見をしながらイエローが訊くと、グリーンはパズル本から顔をあげた。
「会議に行ってるよ。代表で。」
「リーダーのレッドだけでいーんじゃないのか?何でブルーも行くんだ?」
「レッドだけだと心配だからじゃない?」
イエローは溜め息をつき、
「レッドも情けね―なー・・・もし俺がリーダーだったら」
「リーダーだったら?」
イエローがカレーを小皿に注ぎ、味見を勧めてきたが、グリーンはそれを断る。
カレー戦隊イエローレンジャーを組織する!
「な、何ソレ・・・」
「カレー戦隊イエローレンジャーとは日本の食卓の平和を守る戦士たちだ。
メンバーは、ムツ〇ロウのように敵を可愛がる必殺技を持つ『激甘イエロー』、
子どもに大人気、むしろ子供大好き。ロリコンかもしれない『甘口イエロー』、
意志が弱く優柔不断。よく敵に買収されそうになる、リーダー『中辛イエロー』、
映画評論とファッションチェックにうるさい辛口コメンテーターのオカマ、『辛口イエロー』、
残酷無比の殺人快楽者『激辛イエロー』の5人だ!
彼らの敵はブラックごはん団というやつらで、 食物に墨汁とかゴ○ブリとかを混入させて食べられなくする。
ブラックごはん団の被害を被ったとき、数日前の煮物がまだ食べられるか微妙な時、
イエローレンジャーはやってきてカレーをご馳走してくれるであろう!!」
何故そこまでカレーずくめの思考が出来るのだろう、とグリーンは少し呆れながらも 会話を続ける。
「その中にイエロー自身はいないの?」
「俺はカレー戦隊の司令官、その名も『カレーの王子様』になるから。」
「ああ・・・そうなの・・・」
「ゆくゆくは水道水のほかにもう一つ、カレーの出る蛇口を日本の全家庭に完備し・・・」
何か変だ、とグリーンは思った。
いつも変だけど、今の彼はそれ以上に変だ、と。
「イエロー・・・?」
おそるおそる、彼の顔を覗き込む。顔色が悪く、目の焦点が合っていない。
もしや、と思い、鍋のカレーをかき混ぜると、途端に異臭がし、 食べ物ではないようなモノが、いくつもいくつも浮かび上がっては沈んだ。
それだけで、彼の異変の理由がグリーンにはわかった。
「イエロー!しっかりして!!」
イエローの作ったカレーは、素晴らしく美味しい時もあれば、 人間の食べられる代物ではない時もある。今日は大失敗だったようだ。 味見をしたイエローさえもが正気を失うほどに。
「騒がしいですね。どうしたのですか?」
振り向くと、ブルーがいつのまにか戻って来ていた。
「大変だよ!イエローが自分の作ったカレーで夢見心地に!!」
慌てふためくグリーンの言葉にブルーは全く動じず、
「そうですか。それは丁度良かった。」
「え?」
グリーンがその言葉の意味を理解する前に、
「♪カレー、カレー、カレーはイエロー・・・ゴフっ!!?」
みぞおちに鉄拳を叩き込まれ、イエローは5メートルほどぶっ飛んで、そのまま動かなくなった。
そして、殴った張本人、レッドは・・・泣いていた。
「イエロー・・・今までバカだバカだとは思っていたが・・・」
彼はイエローがもし聞いていたならば『お前にだけは言われたくない』と激怒されること 間違いないセリフを呟く。
「なんで、そんなコトしたんだ!!!」
今問い掛けても気絶しているイエローに答えられるはずもないだろうに。
「あのさぁ、事情がよく飲み込めないんだけど・・・」
イエローの生死が気になりながらも、グリーンはおそるおそるブルーに尋ねた。
「ああ、そうでしたね。ブラック、大切な話なので貴方も来て下さい。」
しかしブルーの呼びかけは彼の耳には入っていないらしく、 ブラックはパソコンの前から動かない。
ブルーは舌打ちをすると、彼のもとへ行き、やがて何らかの操作を加えられた パソコンのディスプレイは真っ黒になった。
ブルーに半ば引きずられてこちらへやってきたブラックの顔は いつもとほぼ同じ無表情のままだったが、そこには微かに悲しみの色が浮かんでいた。


カレー一気飲み魔?!
グリーンの驚きの声が室内に響く。
「えぇ。道行く人にカレーがなみなみと入ったビールジョッキを渡し、 一気飲みを強要する、という怪人物が近頃この近辺に出没しているそうです。」
「さっき会議で聞かされたんだが・・・」
ブルーとレッドはいつに無く息の合った喋りで、
まさかこんな身近に犯罪者がいたとは・・・
二人してイエローをじろりと睨みつける。 いまだ意識のもどらないイエローは、 レッドの手によって椅子にビニール紐で縛り付けられていた。
「でも、証拠も無いのに決め付けるのは可哀想だよ!」
「オレだって仲間を疑いたくないさ!でも、めったにいないだろ、 こんなカレー好きは。」
「下手すると三食カレーですからね。よくもまぁ、味覚障害にならないものだよ。」
グリーンは言葉に詰まった。助け舟を求めてブラックを見上げたが、 彼は先程のパソコン強制終了ショックからまだ立ち直っていないらしく、 美少女ゲームキャラの名前を念仏のように呟くばかりであった。
その時、出動サイレンが鳴り響いた。
「イエローの処分に関しては一時休止といたしましょう」
「ブルー、いま・・・『処分』って・・・」
「とにかく行くぞ!助けを求めてる人がいるんだ!!」
「イエローいないから・・・ゴロンボ(犬・生後7ヶ月)連れて行くぞ・・・」
そして4人と1匹は巨大大砲によって事件現場へ発射された。


現場は繁華街の裏通りだった。人気の無いうす暗い路地に サラリーマン風の男性が一人、倒れている。
「あの、大丈夫ですか?」
グリーンの呼びかけに反応は無い。男性は意識を失っているようだった。
「脈はある・・・なにか、喉に詰まっていますね。呼吸困難を起こしたんでしょう。」
ブラックが男性の背中を何回か叩くと、彼の口から咳と共に、何かが出てきた。それは、
じゃがいも?!
だった。
「これが喉に詰まっていたということは・・・」
「おーい、こっちきてみろよ!」
ブルーの言葉が、周辺を調べていたレッドの大声でかき消された。
レッドが指差したのは、地面に転がるビールジョッキ、 とその中に3分の1くらい残っているカレー。
「これってもしかして・・・」
「カレー・・・一気飲み・・・」
グリーン、ブラックは揃ってブルーとレッドの顔を見る。
イエローは犯人じゃないって、信じてたぜ!!
思いっきり殴ってたよね??!
レッドも、グリーンも、表向きはとってもいい笑顔だった。
そんなことはどうでもいいですよ。とにかく、カレー一気飲み魔はまだこの近辺にいる。 追跡して、捕まえましょう。」
「いま、『どうでもいい』って言わなかった・・・?」
イエローの冤罪に何も感じていないらしいブルーに、グリーンは背筋が寒くなる感覚を覚えた。
「追跡・・・ゴロンボに臭いを追わせる・・・」
「おお、ブラック頭いい!よし、ゴロンボ、カレーの匂いを追跡するのだ!」
そして彼等は路地裏での追跡を開始した。


人通りの無い裏道を走ること五分。
「やはり犬っパナはすごいな!犯人に近づいてる気配ビンビンだ!・・・お?」
レッドの持つリードをひっぱって走っていたゴロンボが急に立ち止まった。 道の先に、人が立っていたからだ。
こちらに気付き、近づいてきたその人物は、妙に派手な色使いの、インドの民族衣装を着ている。
「うわっあからさまに・・・」
こいつだ、と、グリーンは心の中で呟いた。
「貴方、お名前は?」
「オレ?北島です。」
レッドはこの人物がカレー一気飲み魔だとは気づいていない上に、 変身しているにもかかわらず本名を口にした。
不審人物はビールジョッキを取り出し、レッドに手渡した。その中にはカレーがたっぷりと 入っているのに、レッドはそれを素直に受け取った。
「レッド、罠だよ!」
グリーンは叫んだが、
北島さんの、ちょっといいとこ見てみたい!それ、一気、一気、一気、一気、一気、一気、 一気、一気、一気、一気、一気、一気、!!!
その声はカレー一気飲み魔の音頭にかき消された。そして、その掛け声につられ、 レッドは一気にジョッキをあおってしまった!!
レッドの究極馬鹿!残る3人は心の中で叫んだ。
「あのカレーに入っている野菜はどれも喉に詰まるように大きめに切られていた。 このままではレッドは・・・まぁ私には関係のないことですが
「レッド!!」
ブルーの冷酷な分析とグリーンの悲痛な声が交錯する。しかし、
ゴチでした!!つーか、このカレー、めっちゃうめぇええ!!!
レッドは見事カレーを飲み干した!
「な、なぜだ?なぜこいつは平気なんだ?!」
カレー一気飲み魔はいままでにない結果にうろたえた。
「馬鹿ほど未知数なものはありませんから・・・さぁ、安心して殺られなさい。」
詰め寄るブルーにカレー一気飲み魔は怯えてあとずさった。 その時、レッドが後から彼にガシィッと抱きついた。
「なー、もっとあのカレーくれよ!もっとくいてえよ。・・・お、これか?」
レッドはカレーの入った大きな鍋をひったくり、蓋を開けた。途端、食欲を刺激する いい匂いがあたりに漂う。
「皆も食うか?すげぇおいしいぞ、これ。」
いいにおいと好奇心に誘われ、グリーンはそのカレーに口をつけた。
「あ、本当だ、すごい美味しい!」
ブラックも、何も言わないが、美味しそうに食べている。
「何故こんなにも美味しく感じるのでしょうか・・・普段のイエローに食べさせられるカレーが あまりにも不味いからでしょうか・・・?」
ブルーもぶつくさ言いながら食べるのを止めない。
カレー一気飲み魔はこの光景を見て、にやりと笑った。
「ふふふ・・・かかったな!?具を喉に詰まらせ窒息させるのは失敗だったが、 このカレーには中毒性があるのだ!死ぬまでカレーを食っているがいい! そして死んだらカレー天国へと行くのだ!!」
4人はすでにカレー一気飲み魔に目もくれずにカレーを喰っていた。カレー一気飲み魔の 笑い声が高らかに響く。その時、
ちょいと待ちなぁ!!
突然の声に振り向くと、4人と似たような格好をした、黄色い男が立っていた。
「誰だ?!こいつらの仲間か!」
仲間である確立は5割まで落ち込んだが、そうとも俺はなになに戦隊なんとかレンジャー のイエローだ!!お前のカレーは間違っている!!」
イエローにビシッと指差され、カレー一気飲み魔はすこしたじろぐ。
「俺のカレーのどこが間違っているというのだ!!」
「カレーは飲み物じゃねぇ。一皿のごちそう・・・黄金の食糧だ。それがわからない奴が カレリストの約束の地、カレー天国を語るなど言語道断!!」
そしてイエローは一皿のカレーをカレー一気飲み魔に押し付けた。
「喰え。これが俺のカレーだ。」
「そこまででかい口を叩くとは・・・さぞかし自信があると見えるが?」
カレー一気飲み魔は不敵な笑いを浮かべつつ、そのカレーを一口、食べた。次の瞬間、
がっ!!!?
びくん、と一回痙攣を起こし、地面に倒れると、彼はそのまま動かなくなった。
「あれ?おーい、もっと喰えよ!どーしたんだよ?おい」
何度呼んでも、返事は無い。
「へんだなー。・・・ははあ、あまりにも美味しすぎて、気絶したんだな?」
その解釈が正しいとはおおよそ思えないが。
「よし、じゃあ皆を正気に戻したら社にもどって、カレーごちそうしよ!」


正気にもどった4人は、イエローの顔を見てひどく驚いた。
「どうしてここが判ったの?いやそれ以前に縛られて・・・気絶・・・」
「カレーのにおいたどってきたんだ。机の上に会議でもらった資料出しっぱなしになってたから それ読んでなんとなく事情はわかったしな。」
イエロー〜〜〜〜〜、疑って悪かった!!!
がばちょ、と、レッドがイエローに抱きつき、号泣する。
「仲間を疑うなんて、なんてオレは醜い人間なんだぁ!!!」
「いや、もういいって。それより、早く帰ってカレー喰お」
それだけは勘弁して下さい。
4人の声が、見事に重なった。

〜オハリ〜

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