なになに戦隊なんとかレンジャー最終回
「巨星落つ!噂の二人がついにアレに…筋肉って本当にいいですねぇ」

《1》


某都市銀行某駅前店に覆面の男4人が立て籠こもってから1時間24分が経過した。
警察は銀行ならびにその周辺の路を封鎖。しかし人質14名に拳銃4丁が突きつけられていては下手に動くことはできず、強盗団との交渉をゆるゆると引き伸ばしつつ機を待つほかはなかった。

拮抗。疲弊。焦燥感。
この駅前の一角にはそういったものが淀んでいた。

 

 

「如何でしたか?」

「1階に見張り1人。2階は奥に人質と見張り1人、と、窓際に2人。うち1人がリーダーだよ。黒いニットキャップ被ってるほう」

体じゅうについた埃を払いながら、女子中学生…に見紛う程に小柄な青年は4人の仲間に報告した。
ここは強盗団に占拠された銀行と隣のビルとに挟まれた裏路地。

そして幅60cmしかない狭い路地にぎゅうぎゅうに詰まって作戦会議をする彼らこそが

正義の味方 なになに戦隊なんとかレンジャー

である。
もちろん正式名称ではない。

彼らは国家非公認の私設団体。犯罪者を懲らしめる為に存在するが、その懲らしめっぷりが警察に一級犯罪と断定されてからは仮名称を名乗り衣装にあしらわれたエンブレムすらガムテープを上から貼って隠している、そんな色々な意味でギリギリなレンジャーだ。(ちなみに戦隊内最年長は29歳というギリギリっぷり)

「このビルは3階建てですよね。3階や屋上は?」

「見たところ誰もいなかったよ。3階は空きテナントで屋上は閉鎖されてたし」

目の覚めるような美青年・ブルーが偵察役の少女…ではなく青年・グリーンの話を基にこの建物の見取り図を書いてゆく。

「でもさー警察きてんだから俺らいなくてもいいんじゃん?」

明るい髪色の青年が室外機に腰掛けつつごねるように言う。
季節は初夏。そしてこの人口密度。クーラーのきいた居酒屋にしけこみたくなるのは人として当然だろう。

「グリーンの偵察を無駄にする気ですか、イエロー? 小さな体格を活かして通気ダクト内を這い回った彼の苦労を。」

イエローと呼ばれた茶髪の青年はぐうの音も出ず室外機の上で縮こまった。

「そうだな! グリーンはちっちゃいのに頑張ったんだ。次は俺らが頑張る番だぜ!」

がっちりとした体躯のレッドが暑苦しい調子でそう言ってイエローの肩に腕を回し、

「う〜ん、まぁそうだよな〜 小さいグリーンが頑張ったんだ。俺もやることやんなきゃ男がすたるってもんだよな〜」

外見は軽薄そうだが素直な奴なのだ。イエローは。

「よぅし!銀行強盗たおそうぜ!」

「おー!」

暑苦しくテンションを上げる約2名をグリーン当人は恨みがましい目で見つめた。

「小さいって…小さいって何回言うんだよ……気にしてるのに…… しかも僕のこと幼児かなんかみたいに見てない?…小さいって……」

隣に立つ長身痩躯の青年・ブラックが無言でグリーンの頭を慰めるように撫でたものだから、彼はよりいっそう落ち込んだ。

 

 

銀行の2階は静まり返っていた。
見張り役の男の靴音のみが響きわたる。

フロアの隅に座らされた人質たちの精神力は限界だった。

「ママ…ママ…こわいよぅ…」

若い母親に抱かれた幼児が堪えきれずにシクシクと泣き出した。

「うるせぇな!黙らせろ!!」

窓際の男が苛ついた声を上げ、リーダー格の男の制止を無視し人質たちに詰め寄った。
人質たちに更なる緊張感がはしる。

「静かにしろつってんだろ?!

涙を滲ませる母親の側頭部に拳銃が押し当てられ。
他の人質たちは皆、目を瞑った。その時。

ガッシャアァンと派手な音がし、窓ガラスの破片とともに人間が3人、銀行に転がり込んできた。

「はいどぉもーイエローで〜す!」

「ブルーです」

「レッドでっす!」

「3人揃って、なになに戦隊なんとかレンジャーでーす!」

その場にいた全員、銀行強盗たちまでもが目の前の特撮モノのヒーローのコスプレをしたとしか思えない3人組に思考回路の全てを奪われた。
一方、これまた特撮ヒーローのようなカッコイいポーズをキメた3人は場の雰囲気などお構いなしに喋り始めた。

「いやーしかしね、不満だらけですよ。」

「藪から棒になんですか?」

「僕イエローじゃないですか。でも自分レッドより強いと思うんですよ。むしろ最強の僕こそレッド名乗るべきだ、と思うわけなんですよ」

「身の程知らずもいいところですね。」

「どのあたりがオレより強いんだ?」

「まぁ例えばね、僕 厚さ5cmの板割ったりできるしね」

「オレだって割れるぜ!」

「何がですか?」

「腹筋。」

「いやそういう『割る』じゃなくてね」

「超シックスパック」

「どうでもいいよ」

「まぁ私も割れてますけどね」

「へぇ、何が?」

「先程窓ガラスを突き破った際に額をバックリと」

「大量出血?!」

「いささか立っているのが困難になってまいりました。」

呆気にとられた、というか尻子玉を抜かれたというか。
突然、特撮ヒーローが現れて目の前で漫才を。

あまりの想像の範囲を上回る光景に、強盗団は銃を構えるのも忘れて3人を茫然と見ていた。
だから、自分たちの後ろで人質たちを窓から救出する緑と黒のヒーローコスプレには全く気付いていなかった。

人質全員を無事外へ逃がし終えた後、ブラックは発煙筒に点火し強盗たちの足元を狙って室内に投げ入れると、すぐさま脚立から飛び降り人質を表通りへ誘導するグリーンの元へ向かった。

 

 

「まぁそんなわけで僕ら漫才やってますがね」

「救出完了」の合図の発煙筒が転がるのを見、イエローはフルフェイスのマスクの下でニヤリと笑んだ。
ブルーは後ろに組んだ手を密かにパキパキ鳴らす。

「おい、なんか、煙たくないか?」

強盗の一人がそうこぼした時にはもう遅かった。

「というより何故私達が漫才を?」

強盗たちはうろたえて周囲を見回した。室内がぼやけてみえる。

「それはね」

ついに視界は真っ白になった。

「お前らを倒すためだ!」

レッドの鉄拳がうなる。
ブルーの指弾が降り注ぐ。
イエローのスタンガンが光を放つ。

真っ白な煙を裂いて目の前に現れたヒーローコスプレに、3人の強盗はそれぞれ一撃で気絶させられた。

「あ、俺が仕留めたのリーダーだ。ラッキー!」

「チクショー!うらやましいぜ!」

イエローとレッドの基準が謎なやり取りにブルーは「馬鹿が」と小さく毒づいた。

「気を抜くのは早いですよ。まだ階下に一人」
いるんですから、とブルーが言い終わらぬうちに

「な、なんなんだお前ら!?」

異変に気付いて様子を伺いに来たのか1階にいた強盗の最後の一人が非常階段へ続くドアの向こうから声を上げた。

「よっしゃ!オレがいくぜ!」

相手は拳銃をこちらに構えているのを気にもかけず、レッドは一直線に駆け出した。

「うわぁ!来るなぁ!」

怯えうろたえた強盗はとっさに引き金をひいてしまった。銃弾はレッドの顔面めがけ飛んでゆく、が、レッドはそれを左手で無造作に払いのけた。鉛弾がコンクリートにクロス張りの床にめり込む。
常識では有り得ない現象だが、なんとかレンジャーの変身スーツがそれを可能にした。防弾、防刃に加え耐火耐水性。マスクには暗闇や煙幕の中でも周囲の状況を判別するレーダーと暗視装置が標準装備されている。しかし―――

「おりゃあああっ!!」

レッドの右拳が顔の中心にキマり、銀行強盗は5メートル後方の非常階段の手すりに叩きつけられ気絶した。

変身スーツにパワー増幅の類の機能は備わっていない。

この人外の馬鹿力は全てレッドの実力であり、それが彼が正義の味方にスカウトされた理由である。そして他の4人も又、何らかの能力を見いだされ正義のために戦うこととなった選ばれた存在なのである。

ごめんちょっと言い過ぎた。

ヤツら、単なる会社員だから。株式会社○゛ンダ○取締役名誉会長に気に入られて会長が趣味でつくった私設戦隊にはいらされただけだから!
(給料が他の課よりもいいからこんな仕事でも続けていられるんですよ とはブルーの弁)

 

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