《45》
「裏美!!」
「司令官!!」
「…(明美)…!!」
3人が三者三様に声をあげ(一人は心の中で)、見た先には。
「よぉ。やっと来たか」
不遜な笑みを浮かべ悠然と立つ裏美と、その傍らに倒れ伏すドラリン。
「退屈してたぜェっ!」
裏美はその小柄な軽い体を利用して大きく跳躍し、レッドとの距離を一気に詰めて鋭いハイキックを浴びせかけた。彼の左腕には包帯が巻かれ、三角巾でつられていたが、負傷による支障などまるで無いかのように、その動作は機敏だった。
レッドはそれを右腕でガードする。
「久しぶりだなァ、レッドくん?」
「ドラリンさんに何をした」
「イ・イ・コ・ト」
裏美の挑発的な言葉にレッドの血は沸き立ち、彼は拳を固め大きく振りかぶった。裏美はその全力パンチを紙一重で避け、レッドの懐へ潜り無傷の右腕でボディーブローを打つ、がレッドは身を捻ってそれを避けた。
2人のすさまじい攻防が続いている間に光とブラックは床に倒れるドラリンを助け起こす。
「大丈夫ですか、司令官!」
「……ん? ああ、ありがとう」
顔を上げた彼女は意識もしっかりしており、怪我も見当たらなかったことに2人は安堵した。
そしてドラリンは裏美とレッドの戦いを見遣り、
「うわ…っ ホント〜に来ちまった……」
頭を抱えて溜息をつく。そんな上司の態度に、光は不審さを感じ眉をひそめた。
「……司令官?」
その言葉と態度の真意を問おうとしたその時。
「捕まえた……っ」
「ぐっ……」
レッドが裏美の胸倉を掴み、持ち上げた。小柄な裏美のつま先は床から離れ宙釣り状態になっており、彼は苦しそうに呻いた。が、
「くっ……」
裏美は口の端を上げ、
「くっくくくく…っははははははは! あーっはっはっはっはっはっは!!!」
笑い出した。
その豪快で突然な笑いっぷりに、誰も『悪役三段階笑い』だ!とツッコむことは出来なかった。
「オマエ強くなったなぁ! つーか俺らの演技真に受けて来てくれるなんて、マジでヒーローなのな!」
「「「……へ?」」」
間抜けな声が、同時多発で、響く。
レッドも、光も、ブラックも、そしてつい今さっきようやく駆けつけたイエローとブルーの声も、混ざっていた。
「よぉ、カレー馬鹿にキモナルシスト。お前らもよーやく揃ったか」
呆然とする善太の腕から抜け出た裏美は床に着地し、全員集合したなんとかレンジャーを順繰りに眺めて満足げに頷き。そしてドラリンに勝ち誇った笑みを向ける。
「な、俺の言ったとおりだろ? 牢屋破りみてぇな真似しなくても、事件が起きて助けを呼ぶ声が聞こえれば、アイツはどんな手を使ってでも独房ぬけだしてすっ飛んでくる、ってな」
そして豪快に笑う裏美を皆が呆然と眺め、ドラリンだけが少しふてくされた顔をしている。
「……つまりだな、裏美君が私を処刑するだの云々は」
「うそ、だったんですか…?」
ブルーの問いにドラリンと裏美は、片や呆れ顔で、片や満面の邪悪な笑みで肯定する。
「は、あアァァァァ〜〜〜〜〜???! なんっ…だよソレ??」
驚きと怒りがない交ぜの叫びを上げるイエローにも、裏美は全く動じず。
「いいじゃねぇかよ、会いたかったんだろ? じゃ、俺はやりたいことやったから引っ込むけど、お前ら俺に感謝して、そこのヒーローさんとたっぷりオハナシするこったな」
言いたいことだけ言うと、彼は気を失ってしまった。
ぐらり、と傾き床に落下する小さな体をブラックが間一髪で受け止める。ブラックの腕の中で次に目を開いたときには『彼』は裏美ではなく、いつものグリーンだった。