司令室の机をひとっところに集め晩餐が開始されようとしていた。
「'70年代もののワインだぞー、心して飲め!」
「フルコースの金はないのにこーゆーのに出すお足はあるんだな」
「だってこれ『レストラン・オブ・ザ・キング』の蔵のだもん。タダさ!」
「…窃盗の現行犯で警察突き出してやりたいぜ…」
ドラリンとホンゲダレッドのやりとりに、なんとかレッド、両イエロー&グリーン、ホワイト、ピンクはどっと笑い声を上げた。
「そーいやまだ自己紹介してなかったさー。俺っちはイエローの蔵沢清一(くらさわ せいいち)!」
伝統あるタコ焼き屋の格好をしたホンゲダイエローは、国家レベルの機密を堂々とバラしたため、ドラリンに瞬殺されそうだが、今日のドラリンの立場は弱かった。(なにせ10対1)
「帯刀右近(たてわき うこん)、同じくイエローだ、ヨロシクゥ!」
右近はどこから出したのやら、割烹着に三角巾という学校の調理実習を彷彿とさせるスタイルで片手をあげて挨拶。
「名取明仁(なとり あきひと)だ、通称レッド」
「オレ様は真のレッド、北島善太(きたじま ぜんた)!」
ホンゲダレッドに先に言われたのに腹が立ったのか、わざわざ真のという修飾語を付ける、なんとかレッド。
まだベルサイユ調のドレスを着たままのブルーはそれを横目で見ながら舌打ちをし、あとでフクロにしてやろうと心に誓った。
「倉石庵(くらいし いおり)、ブルーです。この馬鹿の言ったことは気にしないで下さい」
「ご丁寧にフォローをして頂いてありがとうございます。ホワイトの笹林睦実(ささばやし むつみ)です」
「…なんかあの二人似てねぇ?」
耳打ちするドラリンに、ピンクは何度も頷き同意した。
「ピンクで〜っす。本名はひ・み・つv」
「えー?何でさー大治ぎょふ!!」
ホンゲダイエローは一人冥府へ旅立った。(すぐに戻ってきたが)
「…ブラック…土田連賀(つちだ れんが)…」
軽く頭を下げたブラックの視線は先ほどからある人物だけを追っている。
「…えと…なぜかトルコの民族衣装を着たままのグリーン、鳥ノ井明美(とりのい あきよし)です…」
答えは簡単、脱いだら今より恥ずかしい格好(桃色家屋や使用人服。どちらも膝上)をさせられてしまうからだ!
「最後は僕、もう一人のグリーンで、」
「んで私がドラリンだ!さぁコルク開けるぜ!」
「ちょっと待ったあ!」
栓抜きを手にするドラリンに、なんとか・ホンゲダメンバーは立ち上がって彼女を見下ろす。
「ん? 何だ?」
「お前の本名は?」
「あんただけ教えないなんてズルイぜ!」
わけの分からぬドラリンに、ホンゲダ・なんとかレッドが戦陣きって問う。
「隠したい理由でもあるんですか?」
「え、いや別に…」
ブルーの言葉が図星だったのだろう、ドラリンは下45°の目線を左右にさまよわす。
「それと、素顔明かしてないのドラリンさんだけですよ?」
「素顔はやめとけ!」
なんとかグリーンを、ホンゲダメンバーは必死でとめた。
「え、どうして?」
「どうしてって…なぁ?」
「…ねぇ?」
ホンゲダレッド&グリーンは顔を見合わせて、なんとかグリーンの疑問に、何とも言えない表情をして見せる。
「女に夢見る奴はやめとけ。責任は取れん」
ドラリンは自信満々に言い放った。
「夢見るも何も私が一ば」
「何でです?そう言われると余計気になります!」
ブルーの自己陶酔トークが始まったので遮るように、なんとかグリーンは叫ぶ。が、別段ブルーは気にせず鏡を見つめ一人話し続けた。
「皆が皆じゃないが、見かけで判断する奴いるだろ?」
彼女の言葉に、はい、ここにいますね、その顕著な例が…!! と誰からともなくブルーに目を向ける。
「あんた達は外見でこいつを決め付けたりしないか?」
「しません!」
ホンゲダレッドの言葉を勢いよく肯定した なんとかグリーンは、貴女の本性バッチリ見ましたから! という言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、本名ともに教えろよ」
ホンゲダレッドは許容する気はない。
「はい?」
ドラリンは目を点にする。なんで見せる見せないを私じゃなくてこいつらが決めるんだ?
「志しなかばで死ぬのは嫌でしょう?」
「嫌だ!」
ホワイトの言葉に本気を感じとったのでドラリンは命がけで頷いた。
「…嫌だ、あんたが死ぬのは」
「!?」
ドラリンの叫びに、ブラックが応じた!? なんで!?
全員は度肝を抜かれる。
「あんたが死ぬと…見られなくなる…」
「さっきの私の美少女云々、聞いてたのか?」
ドラリンの言葉に頷くブラックの目線は明美から動かない。
(母さん姉さん、僕は今までにない程の身の危険を感じます!)
「腹ぺこ…なぁ、素顔だの本名だのは後回しにして、飯食おうぜ」
ドラリンはみんなが食べてるうちに忘れてくれるのを期待しているとも取れる発言をする。
「腹が減っては戦は出来ぬと言いますし」
何と戦うつもりだホワイト…!皆は思ったが口にはしなかった。
「乾杯」
「乾杯!」
ドラリンの音頭に合わせグラスをぶつけ合う。
「僕お酒飲めないから誰か…」
言い終わる前に、なんとかレッドが、なんとかグリーンの手からグラスをひったくり一気に飲み干す。
「あーずりい! 俺も欲しかったのに!」
「早い者勝ちだぜ!」
「低レベルな争いですこと」
トークの佳境で鏡を割られて沈みまくるブルーは自棄酒に走り、ドラリンから奪った一升瓶を抱えながら、なんとかイエローと、なんとかレッドを蔑視する。
「楽しんで飲まないと体に毒ですよ」
ホワイトの台詞に、ブルーは笑顔で大丈夫です、と答え、コップの中身を一気にあおる。
「さー何から食べよっかな〜。このカレーピラフ旨そう!」
ドラリンは所狭しと並べられている料理を見て笑顔。
「タコ焼きもいい匂い」
なんとかグリーンは肺いっぱいにソースの香ばしい芳香を吸い込む。
「頂きます!」
ダブルイエロー以外全員が食物を口に入れた瞬間。彼らの表情が凍り付き、ある者はテーブルに顔を突っ込み、ある者は燕下する前に吐き出し、微動だにしなくなった。
「そんなに美味いのかー?まいっちゃうなあ〜」
「食べてみるさ!」
口に料理を放り込んだ瞬間、両イエローも犠牲者となり、司令室は沈黙し夜明けまで目を覚ます者は誰一人いなかった。
次の日街は平和だったが、二つの戦隊のメンバーは全員欠勤、トイレにしがみつく一日だったという…。
終…
緑文字=なま 青文字=白後奈美 の提供でお送りいたしました。