星と朝日と断末魔
「ギブ、ギブ…」
なんとかグリーンの顔が青を通り越して土気色になり始めた頃、初めて彼は降参の合図をする。
「まだまだ甘いなぁ〜明美!」
なんとかイエローは、なんとかグリーンに手を貸し立ち上がらせる。
「ご、ごめん、体力には自信があったんだけど…」
息を切らせた なんとかグリーンの額には汗の玉が光っていた。
「あーなんか喉渇いちゃった。飲み物ある?」
ドラリンは持参したクーラーボックスからジュースの缶を取り出すと、なんとかグリーンに投げる。
「ほい」
「あ、ありがとうございます」
受け取り、タブを開けると炭酸飲料特有の、小動物のくしゃみと同じ音がした。
なんとかグリーンは、今までの全ての失態を水に流したい心のあらわれだろうか、缶の中身を一気に喉に流し込む。
「よくジュースなんて持って来てましたね、司令官」
ホワイトは意外そうにドラリンを見た。
「うん、酔い冷ましにと思っ…」
言葉を途中で切った上司をいぶかしげに覗き込む なんとかレッド。
「どうしたドラリンさん?」
「善太君」
「なんだ?」
「明美君の持ってる缶…なんて書いてある?」
「えっ?!」
いち早く、なんとかグリーンの手から缶を取り上げ表示を見た なんとかレッドの表情が凍りついたが、やっとの思いで声を絞り出す。
「アルコール分5%…お酒は二十歳になってから…」
なんとかレッドに注目していた面々は、機械仕掛けのような動きで、ゆっくりと、なんとかグリーンに目線を移す。
「ヨォ」
うつむいていた なんとかグリーンが顔を上げるとそこにはいつもの彼ではなく、戦慄と恐怖を皆に与えた地獄の使者がいた。
「…!!」
ドラリン、あんたなんて事してくれたんだ!! と言う暇もなく、クモの子を散らしたようにメンバー達は一目散に逃げ出した。
「なんだなんだぁ? わざわざ出てきてやったのに随分じゃねぇ?」
頼んでませんから、むしろ不可抗力ですから! と思いつつも全員、足を休めない。
「じゃあ別の所にでも行くか…」
後ろでそう聞こえたきり独り言がやみ、何かが地面に落ちる音がしたので敵前逃亡レンジャー達は自分達の逃げて来た先を振り返ると、20cmほどの細い竹筒を手に持つドラリンと地面に伏す なんとかグリーンが目に入った。彼の首には針が刺さっている。
なになに、ホンゲダ両メンバー達は危険は去ったとして元の場所に戻ろうと、のんびり歩くが なんとかグリーンを小脇に抱え逃走してゆくドラリンを確認。彼らは必死で追いかけた。
体力自慢の二人がなんとかドラリンを差し押さえ、新たな犯罪の芽を摘んだ事に安心していると、なんとかグリーンが目を覚ます。彼は素面に戻っていた。
ドラリンを、なぜか彼女のコートのポケットに入っていた紐で縛りあげるホンゲダイエロー。
「た〜こ焼〜中はイカーじゃないんですー♪」
「いい歌だな、俺にも教えてくれよ」
なんとかレッドの褒め言葉に気を良くしたホンゲダイエローは熱唱し、なんとかレッドは旋律を覚えようとサビの部分を口ずさむ。
「……?」
ホワイトはツッコミを入れる気力も無いくらいに疲弊しきっていた。
「いい歌…?」
ブルーは なんとかレッドの台詞にいかにも嫌そうな響きを乗せて吐き捨てた。
「いいんじゃない? 結局平和だし」
ピンクに一応の同意を見せた、なんとかイエローとブルー、ブラック。そしてホンゲダレッド、ホワイト、ホンゲダグリーン。
「あれ? 明美君、浮かない顔ねえ」
ピンクはいつもよりもますます小さくなっている なんとかグリーンの肩に、マニキュアを塗った手を置く。
「だって僕、皆さんにすごく迷惑かけて…」
「大丈夫です。私の言いたいことを代弁してくれて、すっきりしました」
ブルーは なんとかレッド・イエローに微笑みかけながら。
「言ってたことは正しいと思うぜ!」
なんとかレッドは歌を教わりながら口をはさむ。
「マジだよな」
なんとかイエローはカレー煎餅をはみつつ。
三つ巴。三者譲らずの戦いは背景の、星の輝く夜空が白み始めるまで続く。
「まあ、なんだかんだで皆結構不満があるんだな」
ジュース片手に、酔いを冷ます残りのメンバー達。そんな中、ホンゲダレッドは口を開く。
「たまには明美君も、はっきり口に出すことが大切さ」
ホンゲダイエローはすっかりお兄ちゃん気分だ。
「ストレスをためるのは良くないですよ」
「だわね」
ホワイトの言葉にピンクが賛同する。
「ハイ! でもそんなにストレス感じてないつもりだったんですが…」
「意識的に怒るようにするといいかもね?」
ホンゲダグリーンの存在は、今の台詞がなければ誰もが忘れていたことだろう。
「そうですね、もう一人のグリーンさん」
「広河光です…」
ホンゲダグリーンのいじけ口調に、縛られた者と戦闘中の者除き、全員が声を揃えて笑った。
「あ、朝日!」
なんとかグリーンの声を合図にして、戦いの渦中のトリオも涙でネズミを描いていた誘拐犯も、誰もが朝焼けの中、日の出に目を奪われた。
「さーてと、今日も一日頑張ろう!」
なんとかグリーンは伸びをしてブラックの手を引いて走り出した。
「爽やか青春ドラマだ」
ホンゲダレッドの呟きにホワイト、ピンク、ホンゲダグリーン、ホンゲダイエローは頷く。
「走れ青春ん!!」
叫んだドラリンにホンゲダメンバーは攻撃を仕掛ける。
断末魔が佐々木公園に響き渡った。
桜吹雪は、ほんのり赤く染まりながら、ふぅわりと風に舞い踊り。春の訪れを告げていた。
終わり。
緑文字=なま 青文字=白後奈美 の提供でお送りいたしました。