合作!愛犬失踪事件
涙は心のメセンジャー
愛犬の散歩のため、今日もきっかり夕方五時に会社を出たホンゲダレッド。自宅の玄関に入った彼は、愛すべき家族の出迎えがないのに気付く。
が、別段慌てた様子もなく再び電車に乗り帰宅ラッシュの波をすり抜けながら逆行し、自分の勤務先に戻る。
エレベーターに滑り込むのを数人の官職員が目撃した。
目的階についたという録音アナウンスが流れ、ドアが開くのももどかしいのだろう。扉をこじ開ける動作に、その階から下へ向かうため機械の箱に乗り込もうしていた職員数人は度肝を抜かれてしばしの間、呆ける。箱型リフトは無人のまま虚しく復路を辿る羽目になった。
司令室に向かう廊下で指をパキペキ、と鳴らし、自動ドアが開くなりつかつかと上司に歩み寄りざまに殴りとばして一言。
「チョコをどこへやった、貴様」
突然殴られた上、開口一番に身に覚えのない事を尋ねられてドラリンは助けを求めるようにまわりを見回す。
「レッド、ここに貴方のワンちゃんはいませんよ?」
「じゃあお前の家か?」
ホワイトの言葉で疑いが晴れた訳ではない。別の可能性を考えドラリンの胸ぐらを掴み、持ち上げる明仁。
「ぐぬぉ…何の事だよ、訳分かんねーよ!!」
「すっとぼけるな!」
彼の瞳は怒りの炎で揺れていた。
「レーッドv」
背後から殺人未遂者を抱き締めるのは、不自然な裏声からピンクであろうと容易に想像がつく。
「だー!やめろ!!」
振りほどく際にドラリンを持っていた手を放す。
「いで!」
重力に逆らえるはずがないドラリンは床に、強かに尻を打った。
「おー痛…ピンクサンキュウ」
司令官は尻をさすり、ふらつきながら立ち上がる。
「お前がチョコを連れてったんじゃないのか?」
ピンクに抱きつかれたショックで冷静さを少し取り戻したレッドの背後では、ピンクが倒(さ)れていた。
「レッド、確かに以前、君の愛犬をさらったのは私。だが今回は違う。な、ホワイト」
ドラリンは自分の無実を証明してもらおうとホワイトに振る。
「ええ。今回珍しく司令官は嘘をついていませんよ」
今回?珍しく…?
グリーンとイエローはホワイトの言葉に疑問を覚えつつも、話の腰を折るようで何も言えずにただただ三人を見守る。
「ホワイトが言うならそうなんだろう」
メンバーホワイトは、その人が嘘をついているかいないか一瞬で見抜く。その誤差は0.00001%以下である。ちなみに、外したのは風邪で40度近い熱を出した時だ。つまりそれくらい正確なのだ。
「え…じゃあ、チョコはどこに行ったんだ?」
「私に対しての謝罪はないんかい…」
ドラリンはふてくされたが、誰もそのことには触れなかった。
「心当たりはないのかい?」
問うイエローの声は、レッドの不安感を増すだけだったかも知れない。
「…前に一度ベランダから抜け出て、俺をここまで迎えに来たことはある。でも、今は来てないんだろう…?」
メンバーは躊躇しながらも、しっかりと頷く。
「…そ…うか、分かった…司令官」
「ハイィ!?」
八つ当たりでもされるのかと懸念していただけに、唐突に話しかけられ声が裏返る。
「…すまなかった、何も聞かずに殴って…」
普通だったら「疑われるようなことを普段からしてるからだ!」と足蹴にされるのに、ところがどっこい!しおらしく、素直に謝られたではないか!
これにはさすがのドラリンも動揺して慌てふためいた。
「いや、いいんだ、いつもの私の行いも悪いんだから!」
「よく分かってるじゃないですか」
ホワイトが皆を代表して発言した。
「じゃあ俺はチョコを探しに」
行ってくる、と言いながら振り向いたレッドは、自分の足に突っかかってすっ転んだ。
「だ、大丈夫!?レッド!!」
グリーンが駆け寄るも、レッドは無言で起き上がり、大丈夫だ、大丈夫、と呟きながらふらふらと部屋を出ようとして机の角に小指をぶつける。痛い思いをしたわけではないのに、当人以外の五人が蒼白になっていた。
部屋を出ようと出口に向かったレッドは、自動ドアが閉まりかけているにも関わらず歩調を緩めることをしなかったため、センサーが人を感知する前に彼はドアに顔を突っ込んだ。
その衝撃でよろけ、机に頭をぶつけて気絶したのを見て、司令官含め、メンバーの背景には落雷とともに「駄目じゃん!!」の一言しか出てこなかった。