涙のセールスドライバー

時間はさかのぼり、同日の昼過ぎ。なんとかレンジャー・レッドは昼食の腹ごなしに、みんなで飼っている小犬・ゴロンボの散歩に出ていた。

「走れェ、ゴロンボおおォ!風のように!嵐のように!!」

時速40キロは出ているその様は、散歩というより暴走…歩道でなく車道を行くべきであろう。

「ム?!ゴロンボ、ストーップ!!」

レッドは摩擦熱による煙と火花をあげて立ち止まり、レッドのすぐ後ろを走っていたゴロンボはそのままの勢いでレッドに飛びつきなんとか停止した。
ゴロンボの飛びついた衝撃によろけもせず、レッドは目の前の6車線の道路の向こう側を注視した。
一匹の茶色い犬が、車道を渡りたそうにしている。

「危ねぇな…」

そう呟いた、その時、
恐れていたこと…犬が、車道に飛び出した!

「やめ…!!」

レッドは、とっさにガードレールを飛び越え、走った。運送業者の大型車が、犬に迫っていた。

「△●⊇★$$!!」

日本語ではない言葉を叫び、レッドはトラックの前に両手を広げて立ちはだかり、トラックの運転手は驚いて力一杯ブレーキをかけた。しかし、時すでに遅し…

 

「うわあああああ!!」

その場に居合わせた者、全てが己の目を…疑った。
道路に飛び出した一人の男がその両手で、素手で、止めたのだ。トラックを。
ゴロンボが先導し、例の犬が無事道路を渡りきったことを横目で確認し、レッドはゆっくりと車体から手を離した。車内の運転手は、一瞬宙に浮いたような感覚を覚えた。つまり、運送トラックの前輪は、10センチ程持ち上がっていたのだ。

「どーも、すいませんでした!」

ペコリ、と頭を下げ走り去るこの男を止めようとする勇気のある者は、いなかった…

 

「とゆーわけで、そのままついてきてしまったのだ!」

犬が2匹に増えている、と驚く皆に、レッドは笑顔で説明した。

「レッド、大丈夫だったの?!」

「なにがだ?」

心配を通り越して動転するグリーンに、レッドはキョトン、とした顔で聞き返す。

「何って、素手!トラック!!」

「落ち着きなさい、グリーン。奴は魚雷でも死なないバケモノです。」

ブルーは半ば呆れたような声で、

「で、どうするんですか?」

ゴロンボと、そしてイエローと、戯れている犬を見遣って言う。

「飼いたい!」

犬2匹と共に床を転がりながら言うイエローの顔は幸せそのもの。

「ゴロンボのお嫁さんにするのだー!」

「お嫁さんって…ゴロンボまだ小犬じゃん」

「犬は1歳で成犬になるぞー姉さん女房は金のワラジを履いてでもルックフォー!」

「これ以上犬を増やしてどうするんですか。犬戦隊でも作るつもりですか?」

ブルーは嫌味のつもりで言ったのに

「犬戦隊か…いいかもな!」

真に受けて目を輝かせるレッドにブルーは殺意を抱きつつ。

「それに明らかに飼い犬ですよ。その飼い主バカをアピールするかの如くな胴輪が見えないのですか?」

茶色の毛並みに良く合った赤い胴輪には小さな造花が、飼い主の深い愛情を表すかのごとく飾られている。

「そんなことは100も承知!でもやっぱ好っきやねん!!」

言うなりイエローは犬を抱きしめて部屋を飛び出した。

「ちょ…どこいくのぉ?!」

グリーンの声はすでに届かず。

「もう…変なトコで自分を曲げないんだもんな…カレーとかさ」

少し腹を立てて一人ごち、

「やっぱ、追った方がいいよね。飼い主さんの元に返してあげないと」

言ってブルーを見上げたグリーンの表情は固まった。

ブルーは「あの馬鹿面倒臭い真似しやがって」と繰り返し繰り返し無表情で呟いていた…

    

もどる