「こんなとこにいたのかよ」

2日前まで寝込んでいた風邪は完治したらしく、左近はスルスルと木を登り、あっという間に右近の隣に腰掛けた。

「すっげー冒険したらしいな」

「お前が風邪でへたばってる間にな」

右近はつい先ほどまでの感情を心の奥に押しやり、左近に意地悪な笑みを向ける。
左近は不本意そうに口を尖らせた。

「ちぇー。今年はエイプリルフールも何もできなかったし、つまんねーなー」

その不満たらたらの言葉が右近の頭の中にひっかかった。

「エイプリル、フール……?」

何かを忘れている、気がする。

「そー。その日はお前血まみれで夜中に帰ってきてさ、そのまんま1日中寝ちゃってたじゃん。だから何も出来なかった。
去年は楽しかったよな、この山に埋蔵金が隠されてる、なんて偽の地図作って進兄と信乃連れ出してさ」

左近の去年の思い出話に相槌を打ちながらも、右近の頭は忙しなく回転しつづける。

何かを忘れている……見落としている……

「結局日が落ちるまで探し回った後にネタばらししたら、嘘つく日だからって何言ってもいいわけじゃないって、二人にメチャメチャ叱られたよなー」

パチン、と右近の脳の中で火花が散った。

嘘つく、日。
エイプリルフール。
4月1日。……広河 光の、誕生日。

『……もう、光の誕生日になっちまった。』

頭の中にその一言が浮かび上がってくる。
あの言葉に、大切な意図が隠されていたとしたら。

真意は全く逆だという暗示だとしたら。

視界がぱぁっと明るく開けたように右近は感じた。

大治郎はきっと、自分を父親の元に返したくて、わざと厳しい拒絶の言葉を突きつけたのだ。
その裏に本当の言葉をそっと織り込んで。

ならば、あのメッセージは……!

胸に熱いものが広がる。
心臓がはちきれんばかりに動き、血がうなりを上げて全身を巡った。

「右近、どーしたんだよ?」

黙り込んだ弟を心配する左近の声に引き戻されるやいなや、右近はパッと顔を上げた。その表情は生気に満ちている。

「左近、修練するぞ!」

言うやいなや木から飛び降り、修行場へ向かって駆け出す。

「いきなりどうしたんだよ、次の修練は2時からだぞ?!」

突然弟の行動に驚きながらも追いかけてきてくれる左近の声に、右近の口元は緩む。
体の中を何かが転げまわって、くすぐったいような暴れたいような気分だった。

『一人前の天狗になったら必ず会おう』

大治郎がくれた本当の約束。

その約束を実現させるために。

今度は、大治郎が優しい嘘をつかなくてもいいように。


「オレは、もっともっと、強くなりたい!」


〜おわり〜




〜あとがき〜

大治郎と右近のたった一晩だけれど、とても長かった冒険にお付き合いいただき、どうもありがとうございました!

拍手、感想などいただけるととても嬉しいです。


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