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その日は、朝から空が眩しすぎた。
魔物であるケガレはもちろん、堕天した溜も、強すぎる日光は苦手になっていた。
クラクラする頭を抱え、窓のブラインドを半分まで下ろすケガレに、声がかけられた。
「ケガレ」
溜が自ら声をかけるのは、非常に珍しいことだった。
「やぁ、溜。おはよう。」
「子ども、できたみたい」
一瞬、何を言っているのか、飲み込めなかったが、
「本当…に?」
白い頬を桜色に染め、溜は頷いた。
「ケガレの、子」
その様子はとても愛らしく。
強い喜びがケガレの胸を打った。
「僕の子じゃ、ないよ。」
「…え?」
溜の戸惑いの表情も、また愛おしくて。
ケガレは溜を力いっぱい抱きしめ、耳元で囁いた。
「僕と、溜の子。」
しばらくの間、2人はそうしていたが、溜は、ふと顔を曇らせた。
「あのね、ケガレ…」
言いよどんだ、その時だった。
ズン……
突如、地響きが起こった。
ケガレは急いでブラインドを上げ、窓から身を乗り出して周囲を見渡した。
時計台が、壊されていた。
この街で一番高くて古い、この街の誰もが好きだった時計台の、上半分が無くなっていた。
切り取られたその残骸が、時計台を取り囲む大広場やその周辺の建物の上に散らばり、また突き刺さっている。
そして、
煙と塵の沸き立つ空に、眩しすぎる太陽を背負う影があった。
そのシルエットは、溜のかつての姿に似ていた。
しなやかな肢体を隠しもしない、白い翼と長い金の髪。
その、天からの遣いは、よくとおる真っ直ぐな声で、足元の街に向かってこう言った。
「この町に潜む罪人よ、今すぐ出てきなさい。」
――――――処刑天使!
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