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ケガレは溜の腕を掴み、有無を言わせぬまま裏口から外に出た。

そのまま、裏路地を通って街を出、小高い丘をこえた向こうにある、深く暗い森を目指す。

しかし、丘を登る中腹あたりで、二人の前に時計台を壊した追っ手が立ちはだかった。

「神は、貴方に目をかけていらっしゃった」

処刑天使は、自らの手の中から、両刃の剣を創りだした。

「しかし、魔物の子を身篭ってしまった貴方を、赦しておく訳には行かない」

何の感情も浮かべぬ顔で、剣先を溜に向ける。


「やめろ」

恐怖に震える溜を庇うように、ケガレは両者の間に入った。

天使は、片眉を上げる。

「お前も、裁くようにとの命を受けている。」

「裁く?殺す、と言えば良いだろう?」

ケガレはわざと、皮肉った笑みを浮かべた。

天使は、ケガレに向かって剣を構え直す。

「僕の命などくれてやるさ。
ただ、溜と子どもは殺させやしない。」

言うなり、天使の脇腹をめがけて脚を蹴り上げる、が、 その動きは途中で見えないものに弾かれてしまった。

「おごった真似はよせ。低俗生物のお前に、何ができる?」

剣を、一閃させた。

ケガレは、それをあえて避けなかった。

よければ、溜が斬られてしまうから。



肩口から胸まで切り下ろされたところで、剣は止まった。

いや、止めた。

ケガレは、刃を、両手で掴み放さなかった。

「無駄なことを…」

天使は剣を引き抜こうとしたが、それはびくともしなかった。

ケガレは、己の身体を貫く刃を、抜けぬよう、全身の肉で締め付けていた。

激痛を堪えながら、彼は叫んだ。

「溜、逃げるんだ!!!」

その声に、今まで立ちすくんでいた溜は我に帰り、ケガレを一度振り返ったが、丘の頂上を目指して走り出した。

「待て!」

追おうとする処刑天使の片腕を、ケガレは力いっぱい掴んだ。

「邪魔だ!!」

殴られ、地面に転がる。が、なおもその足首を掴む。

天使は、このしつこい瀕死の低俗生物に歯軋りをし、片手を溜に向けて突き出した。

消耗が激しいからやりたくなかったが、と一人ごち、手のひらから光の塊を生み出す。



キュン、という高い音がした。

白く強い熱線が手のひらから伸び、溜を襲った。

止める間もなかった。

「溜――――――!!!!」






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