石は賢のこめかみにあたり、赤い血が一筋、日に良く焼けた肌の上を流れた。
賢は、悲鳴を上げることもなく、呆然としていた。
石を投げたのは彼らだろう。数人の、流たちと同じ年頃の子供たちが二人を取り囲んだ。
「駄犬、お前最近妙に楽しそうじゃん?」
『駄犬』というのが、どうやら賢の蔑称のようで、流はそれを聞いた途端になぜか胸がむかむかした。
「こいつとつるんでたのか?」
『こいつ』とは、流を指す言葉だった。
「知ってるか?こいつは悪魔なんだ。お前なんざ頭から食い殺されちまうぜ!」
「知るわけないさ。駄犬は馬鹿だからな!ボニー・ウィングの翼のうまそうな匂いに惹かれてんだろ?犬にとっちゃ、骨はご馳走だもんなぁ!!」
子供たちは、いっせいに笑い出した。
その、脳にひどく響く声を振り払うように、流は怒鳴った。
「五月蝿い!!」
流自身も驚いた初めての大声に、子供たちは笑うのをやめ、一斉に流を睨みつけた。
「何だよボニー・ウィング」
「文句あんのか」
流は問いかけには応えなかった。
応えることさえ腹立たしかった。
憎悪に満ちた視線を、同種のもので返す。
「何とか言えよ!」
静寂を破るかのような背後からの一撃に、流はバランスを崩した。
追い討ちをかけるかのように足を引っ掛けられ、地面に転倒する。
「…ハハッ!」
かすれた笑いがひとつ起こり、そして広まる。
子供たちは笑いながら、流を足蹴にした。
「調子に乗ってんじゃねーよ!」
「気味悪いんだよ!」
「俺らがお前を恐れてるとでも思ってんのか?!」
「お前なんかぜんぜん怖くねぇんだよ!」
幾本もの足に蹴られる中、視界の端に羽交い絞めにされている賢が映った。
「やめて!」と何度も叫び、もがいていた。
その姿に、蹴られる痛みよりもはるかに鋭い痛みが胸を刺した。
「やめろ」と言いたかったが声が出ない
「何だよその目。言いたいことがあるなら言えよ。お前、悪魔なんだろ?俺らを殺してみろよ!」
頭の中が一瞬、真っ赤に灼けた。
その時、
「お前たち、何をやっているんだ!!」
大人の怒鳴り声が響いた。
子供たちはぴたりと暴行を止め、一斉に逃げていった。
「…ったく…君たち、大丈夫かね?」
二人を助けたのは、額に一本角を持っている中年の男だった。
彼はへたり込んだ賢を立たせてやり、
「君も、大丈夫かい?」
言って、流に手を差し伸べようとして、固まった。
流の背の、骨の翼を見たからだ。
彼は流が身を起こす前に立ち上がり、
「大変だ。血が出ているじゃないか」
と、そらぞらしく、賢の額の手当てを始めた。
流は一人で、何も言わず立ち上がり、その場を去った。
丘の上の、木の下へ。
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