¢¢¢¢¢


翌日、流の元へやってきた賢は、一瞬誰だかわからなかった。

伸ばし放題だった髪はきれいに短く切りそろえられ、大人ものらしいブカブカの白いシャツに、布靴と、きちんと服を着ていた。

「びっくりした?」

無言の流を、驚いていると解釈し、賢は嬉しそうだった。

「昨日助けてくれたおじさんが、髪の毛切ってくれて、服と靴くれたんだ。ちょっと、動きにくいけど。」

「…そうか。よかったな」
「うん!」

顔が凍りついた様に固まって、うまく笑えた気がしなかった。

「それでさ、今日は…」

「二度とここへは来るな」

流の言葉に、賢の表情が固まった。笑顔のままで。

「…え?」

賢の黒く丸い瞳が不安から動揺へと色を変えてゆく。

流は彼に背を向け、自宅へと歩き始めた。
「もう会わないと言っている」

賢が後をついて来るのがわかった。
「なんで?どーして??」

「お前と馴れ合うのに飽きた」

賢の顔を見ないまま。流は感情を殺した声で答えた。

「流ちゃん…」

「俺は悪魔だ!人狼ごときが俺とナカヨクできるとでも思ったか?!」

自宅の玄関を開け、中へ入ると賢の鼻先で思いっきり力を込めて戸を閉めた。
バン!という音が頭にひどく響いた。

しばらくの間、鍵のかけられた戸のノブが回り、ノックと自分を呼ぶ声が止まなかった。
流は部屋の奥にうずくまり、耳を塞いだ。

――――帰れ!帰れったら!!


やがて音が消えた。

恐る恐るドアを開けるとそこに賢の姿は無く、閑散とした丘の上を風だけが吹き抜けていた。

「ううっ……」

あばら骨に囲まれた身体の最奥から刺すような痛みが広がり、流は胸を押さえてその場に膝をついた。



これで良かったんだ。


賢には家族がいなくて

賢の体にはよく見ると傷跡がたくさんあって

俺と一緒にいると賢まで皆に嫌われてしまう


だから

これで良かったんだ!


なのに

どうしてこんなに痛いんだろう――――?



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