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それからも、賢は毎日丘の上の流の家へやってきたが、流は返事もしなかった。

家にこもってひたすら本を読む生活が続いた。

本の内容はまったく頭にはいってこなかったが、他にすることも無かったし、賢と一緒にいるときには忘れていた、強くなりたいという飢えた感情が再び流の心の中心を占めるようになっていた。



街には行きたくなかったが、本の貸し出し期限が切れるのはどうにもならない。
流は大量の本を両腕に抱えて丘を下りた。

賢に遭わぬよう祈りつつ、彼のいそうな裏路地を避け、表通りを行く。

人通りの多い中を、冷ややかな視線を浴びながら歩く。
賢と二人で街で遊んでいたときには忘れていた痛みが蘇る。

一人で歩くことは、こんなにも心細いものだったのか?

先の角を曲がると図書館が見える。

流は歩調を上げた。

その時、麻痺した耳に声が飛び込んできた。

「おい、ケンカだとよ。」
「また。ガキどもか?」
「ああ。また、駄犬を、な。」

『駄犬』という通り名が聞こえ、流の胸は高鳴った。

「しょーがねぇな。ガキは自分より下の奴には容赦がねぇからな」
「痴子に生まれた駄犬も運がねぇんだよ。親にも捨てられちまうしよ」

道端のゴミ箱に腰掛けた、会話の主の青年二人に、流は走り寄っていた。

「どこだ?!」
「なっ…?」

流は二人に掴みかかる勢いで訊いた。

「賢はどこにいる?!!」

場所を聞くと、流は両手一杯の本をその場に置き、走り出した。

その後ろ姿を二人の若者は、そして周囲の魔物たちも、呆然と見送っていた。
誰もが皆、『ボニー・ウィング』の声を初めて聞いたのだ。

「俺らも…行くか?」

珍しいものが見られるかもしれない。

多くの魔物が、流の後を追った。



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