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訊き出したその場所には、人だかりが出来ていた。

時にはあおり、時にはなじる野次馬たちをかき分けると、賢の薄茶の柔らかな髪が紅いもので汚れているのが見えた。

賢は服を引き裂かれ、鉄柵に針金で両腕を括り付けられて動きを封じられていた。
その彼に対して、あのときの子供たちが石を投げつけている。

握りこぶし程もある石が賢の体に当たるたびに、歓声と悲鳴が上がった。

見ている大人たちの中には、かわいそうに、と顔を覆う者もいたが、彼らが賢を助ける気配は無かった。



体内の血液が一気に湧き立つ感覚を覚えた。

体は熱いのに、頭の中は不思議と冷めていた。
周囲はうるさい筈なのに、何の音も聞こえない。

飛びかかるように輪の中に飛び込むと、そのまま子供たちの一人に体当たりを食らわせた。

彼らは振り返り、何事かを自分に言ったようだが、全く聞こえない。

――――二足歩行生物の急所。

「音」は、脳の中に響いていた。

先に転ばせた子供の持っていた鉄のパイプ管を拾い、近くにいた子供の頭部をよこざまに殴りつけた。

――――『こめかみ』

殴られた子供は首をおかしな方向に回し、倒れた。
他の子供が、血相を変え、流とのそれと似たようなものを持ち、こちらへ駆けてきた。

――――秒速推定2メートル。加速プラス0.2メートル。直線運動。

わずかの動きで鉄パイプを避け、

――――『膝』

左足を普段とは逆の方向に曲げ、子供は大地にぶつかった。
残る子供たちは一斉に流に向かってきた。

――――『顎』

――――推定エネルギー14キログラム。右方向加圧5キログラム。誤差60度。

――――『鎖骨』

コロス。

――――『骨盤』

シネ。

――――

シネ。

――――



シンデシマエ。



「もうやめて!!」

賢のありったけの声に、流は我に帰った。



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