「もうやめて!!」

賢のありったけの声に、流は我に帰った。

足元には血まみれの子供たち。立っている者はいなかった。

「あ……」

何かを言おうとしたが、言葉が見つからなかった。



「やりすぎだ」

周囲の人ごみから声が上がる。

「限度を知らないのか」

「大人しくしてると思っていたが、やはりこいつは悪魔なんだ。」

「あの目を見たか?恐ろしく冷たい――――」

ざわめきは増幅し、恐れと憎しみの視線が流に降り注ぐ。
流はたじろいだ。

「俺は…」

「皆落ち着け」

消えそうな流の声の変わりに、聞き覚えのある声が響いた。

人垣が割れ、ケガレがこちらにやってきた。
流の頭をなで、そして賢の戒めを解いてやる。
賢はそのまま意識を失い、ケガレの腕の中に納まった。

「庇う気か?」

ケガレにも、責める声が飛ぶ。
彼は町の人々を顧みた。

「この子のやったことは認める。しかしそれは賢を助けるためだ。」

「だが」

「むしろ俺は問う。賢が受けた虐待をお前たちはただ傍観していた。その責は?」

魔物たちは、一瞬静かになった。が、

「たかが子供のケンカじゃないか」

ケガレはその言葉に薄く笑い、

「『たかが子供のケンカ』ならば、お前たちが流を責める必要も無いだろう?」

「しかしこいつは!」

「『こいつは』…なんだ?」

ケガレの笑みは、すでに消えていた。

「俺の子どもが、なんだというんだ?」

その瞳は刃のように冷たく鋭く。彼らは口をつぐんだ。

ケガレは賢を背負うと流を抱き寄せ、そして二人を連れてその場を立ち去った。

丘の上の、大きな木の傍らの自宅へ。



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