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「なぜ何も言わない?」



自宅に戻り、ソファに座らされ、流はようやく声を出すことができた。

「何をだい?」
ケガレは賢をベッドに寝かせると、薬箱をキャビネットから引っ張り出した。

「俺は…本当にあいつらを…殺そうと……した」

今になって自分のやってしまったことに恐ろしさを覚えた。

「それが?」

ぬるま湯で賢の体の汚れを拭き取りながら、ケガレは言葉を促す。

「それは…いけないこと……。命を奪っては…いけない…から…」

うつむく流は正面にケガレの気配を感じ、身を硬くし目を閉じた。



体に、暖かな感触。

流は目を開けた。
ケガレは、流を抱きしめていた。

「その言葉が聴けたから」

きつくきつく抱きしめられたが、息苦しさは感じない。
むしろ…嬉しかった。

「もう何も言うことはないよ。」

流から体を離し、ケガレは極上の笑みを浮かべた。
そしてわが子の頭をクシャクシャとなでると、ベッドサイドに戻り、再び賢の手当てを始めた。

頭が、ぼうっとしていた。

体にはまだ、ケガレからもらった暖かさが残っている。
ベッドの上で、賢が包帯で白くなってゆく。

流はたまらず立ち上がり、家の外へ出た。





木の下にこうして座るのも久しぶりだった。

風に枝が揺れ、サワサワワと心地よい音色が生まれた。
木の幹にもたれ耳を幹にぴったりとつけると、さらさらと水の流れる音がした。

この木も、生きている。

流は目を閉じ、木の鼓動を聞き続けた。



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