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日が昇り、空が蒼く輝きだすと、
天の宮の正門を抜け、数十人の処刑天使はそれぞれの仕事場へ、その雲の上の神殿から飛び立ってゆく。
その日の彼の仕事は、ある人間の国のリーダーの処罰。
罪状は家臣の妻との姦淫と殺人。
目的地まで、一直線にその翼で降下する。
行く手に雲はない。
神が処刑天使の妨げとなる雲は吹き散らしてくれているからだ、と教えられていた。
こまごまと地表に張り付くように住居が密集した人間の町の、その中心に立つ王宮の尖塔の先へ降り立つ。
町に住む人間たちが、自分の姿を認め、指をさした。
なにやら叫んでいるようだが、離れているので聞こえない。
処分するのは王一人。
探すのは面倒なので、精神を集中させ手のひらから白色の熱線を出し、隣の塔を倒壊させた。
ドォン…という派手な音に、案の定、町からも城からも人が大量に出てくる。
彼はよく響く、澄んだ声を上げた。
「この国の王を出せ」
ほどなくして、がっしりとした体格の、上等の着物を着た人間が一人、こちらに進み出、膝をついた。
「麗しき神の御使い殿。お目に掛かれて光栄で」
言い終わる前に、王の首は飛んでいた。
彼は得物の大鎌を一振りし、血のりを払う。
「お前は妻がいるにもかかわらず、家臣の妻を娶り、また家臣を殺した。」
周囲の人間どもは静まり返っていたかと思うと、一気に歓声を上げた。
「天使様!」
「よくぞ悪王を倒してくださった!」
「これで我々は自由だ!」
「ありがたき神の御使い!」
「神は見ていらっしゃったのだ!」
崇め讃える声を背に、彼は翼をはためかせ、飛び去った。
人間たちは残念そうな声を上げたが、それでも感謝の声はやまなかった。
彼にとって、人間たちの声などどうでもよかった。
それよりも、次の仕事が待っている。
太陽と雲の下を、地上を見渡しながら飛んでゆく。
飛び交う虫や鳥とぶつかり、殺してしまわないようなるべく高く。
時折、地上の生き物が自分の姿に気づき、見上げる。
彼は顔に受ける風を味わう気も眼下の景色に見とれる気もなく、ひたすら目的地を目指した。
空と地上をつなぐ梯子のように、高くそびえる建物が見え、彼は高度を落とす。
目的地だった。
任務は、この町の住人全員の処分。
罪状は、偶像崇拝と天を侵そうとする思い上がりすぎた思想。
この町の人間は天の宮に届くほどの高さの塔を造り、自分たちが神になろうとした。
彼はまず、高い壁に囲われたこの街の、東と西と北の門を熱線で破壊し塞いだ。
それから、町の住民たちが轟音に驚き住居から蟻のように出てくる中、町の北に建つ高い高い塔を南へ倒した。
人間たちは恐慌状態の中、逃げ惑った。
四方ある出口の、三箇所が塞がれているので、皆自然と南の門を目指す。
彼は南の門の上に降り立ち、人間が町から出る前に、結界を張り、門を閉ざした。
大方の人間が南門の前の広場に集まったところで、足元の鉄筋でできたこの建造物を倒した。
大量の悲鳴。
土ぼこりと叫びがおさまると、彼はようやく門の下の、瓦礫と死骸の山の上――滑らかな石畳だった地面に降りた。
残骸の中から這い出る生き残りを、一人一人仕留めていく。
足を引きずり逃げようとする青年も、
赤子を抱き、庇うようにうずくまる女も、
目を閉じ、胸の前で手を組んだ老人も、
何が起こったかわからず、呆然とする幼児も。
悲鳴と、彼を罵る声が響く。
「悪魔」
と口走る声に、彼は少しだけ首をかしげた。
自分は、天使だ。
心の中で訂正し、大鎌を一閃する。
首や、腕や胴が地面に落ちて動かなくなった。
そして
その町を静寂が包んだ。
目を閉じ、気を巡らせると、モノの形が消え、生きているものの魂だけが見えてくる。
北の塔の残骸に、隠れるようにして、ひとつだけ魂を見つけた。
彼は即座にそれを刈り、任務を、終わらせた。
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