CCCCCC
次の仕事を終えたのは、それから丸二日が経った頃。
罪人を探すのに意外と手間取ってしまったのだ。
天の宮に戻ると、まず寝所の隣に建つ浴場へ向かった。
もう噴水で体を洗わないという溜との約束を守るために。
浴場には数人の処刑天使が、同じように任務によって付いた汚れを洗っており、
彼が浴場に入ると、全員が彼に注目した。
人気の無い隅の水場を選び、手足を洗っていると、天使が一人、寄ってきた。
「あの、その髪と羽、元は白かったって、本当ですか?」
その天使は彼よりも歳若く、キラキラとしたまなざしで彼を見つめている。
彼はその視線に居心地の悪さを感じ、顔を背けたままで一応返事をした。
「ああ。」
「では、本当に、今まで裁いた人間や魔物の血で、ここまで紅くなったんですね」
「おそらく」
手早く、髪をすすぐ。
「すごいなぁ。僕も、貴方のように強くなりたいです!」
「だったらなればいい」
彼は、年下の処刑天使を振り払うように立ち上がった。
丁寧にはできなかったが、一通り、体を清めることはできたので、そのまま浴場をあとにする。
周囲の天使の、赤い自分に向ける畏敬の念が近頃は嫌でたまらなかった。
赤い色を強さの証と褒め称えられても。
―――白さを失う戸惑いなど、知りもしないくせに
薔薇で作ったアーチをくぐり、噴水のある園に入ると、噴水の傍に溜が座っているのが見えた。
溜もこちらに気づいたようで、嬉しそうに手を振る。
「ロゼ!」
一瞬何のことかわからなかったが、もしかすると…
「それが、私の名か?」
溜の隣に腰を下ろし、訊くと、溜は頷き、そして少し不安げに彼の顔を覗き込んだ。
「ああ。…気に入ったよ」
途端に、溜の表情が明るくなる。
「ロゼ…ロゼか。なぜ、この名に?」
溜は少し考え、それから気恥ずかしそうに、口を開いた。
「ロゼ…は『紅』と同じ。その、髪と、羽の色が…とても綺麗だったから」
少し言葉を切り、そして申し訳なさそうに続けた
「本当は、綺麗とか言ったらダメだよね。その色は、お仕事で人間とか魔物とかを斬って、それで付いた色で、好きで紅くなったわけじゃないのに、そんなこと言ったらダメだよね。」
溜は、少し目を潤ませて、しかし彼から決して目を背けなかった。
「でも…その紅い色を、本当に、綺麗だと、思ったから…」
膝の上に置いた手に、水が滴るのを感じた。
いつのまにか、涙があふれていて。彼は溜に背を向けた。
どうしたのかと気遣い差し伸べられた手を握り、彼は涙をぬぐった。
「ありがとう」
彼は心の底から感謝の言葉を贈った。
硬く絡まった糸がほどけていくような気がした。
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