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目を覚ますと、寝所の寝床の中にいた。
「気が付いたか」
寝台の横には、ロゼの教育係の天使が座っていた。
「庭園で倒れている君を見つけ、盟友たちがここまで運んでくれた。」
頭の中はまだ、霧がかかったようにぼんやりとしている。
「あの園の管理者…『溜』と名乗っていたか」
その名を聞き、ロゼは撥ねるようにして半身を起こした。
「あの…」
「堕天した。」
ロゼは、自分の耳を疑った。
「え…?」
「君は、あの天使と仲が良かったね。落ち着いて聞きなさい」
教育係はロゼの肩に手をやり、再び寝床に横たわらせた。
「溜はあの園で、仲間を殺めた。
さらに堕天した溜を魔物が連れ去ったそうだ。」
この事件の発生と成り行きを天使たちに伝えたのは、他でもない、神自身だった。
疑いようが、無い。
「なぜ、溜は仲間を?!」
教育係は虚空を仰いだ。
「『溜』は…変わった天使だ。名を名乗るとは。」
「…」
「あの天使は、『母』となるはずだった」
「母…」
ロゼも、その存在のことは知っていた。
天使を産み落とす、『生命の木』。あれは、『母』と呼ばれる特殊な天使が、神と交わることによって変化した存在である、と。
『母』は滅多に生まれず、ゆえに非常に貴重な存在である。
「溜………が…?」
「『母』となる天使は他の天使にない性質を持つといわれている。溜は名を持ち、そして」
教育係は言葉を切り、もう一度、宙を見上げた。
「ひとり、を愛した」
「愛…?」
天使は万物を均しく愛するように出来ている。ロゼも、又。
一人を愛するというのはどういうことなのか。それは生きとし生けるものを愛する感情とは異なるのか。
自分が、溜を好きだと思っていた気持ちとは異なるのか―――
「しかし相手は天使。溜の想いは理解されなかったそうだ。そして、溜は思い悩んだ末に相手を殺害した」
「わかりません!」
ロゼは声を上げた。教育係は困ったように眉と眉を寄せる。
「私にも、わからないのだ。神は全てを語ってくださったが、天使の私たちには理解できなかった」
では、自分にもわからないのだろうか?死ぬまで、溜の気持ちは―――
「そして殺害後、溜は魔物に連れ去られた」
「なぜ魔物が」
「ここは、結界も張られていない、開いた場所だ。どのような存在でも、出入りは、出来る。それに、神によると、溜は自ら魔物について行ったという」
ロゼは目を見開いた。教育係は溜息をつく。
「溜の居場所は、神には見えているそうだ」
「では、処刑に…?」
「いや。当面は保留、との神の命だ。……本当に、理解できないことばかりだ」
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