「久しぶりだな…」
時計台の中の、停止している動力室。
流たちと同居する前の賢の住処で、二人が出会って間もない頃、ここから夕焼けを見下ろしたことを流はいまだに鮮明に覚えている。
今は、破損した壁の向こうには、夕方の赤い風景でなく、雪に覆われ月に照らされた青白い街が見える。
輝く星々に、銀色に輝く街並み。その風景に流はため息を漏らした
「きれい?」
「?ああ。」
並んで座っていた賢は流に向き直り、ポケットから古ぼけた懐中時計を取り出した。
「その時計、前に物置で見つけたやつか。直したのか?」
賢は答えず、時計の針を真剣に見つめている。
「5…4…3…」
「?」
そして息をいっぱい吸い込み、
「流ちゃん、お誕生日おめでとう!!!」
静寂の中、突然響いた大声に流は目を白黒させた。
「18歳になったんだよ、流ちゃん!」
賢は流の両手を取り、はしゃぐが、流の頭の中には疑問符が並ぶばかり。
「ちょ、ちょっとまて。誰に聞いたんだ?」
「ケガレさんだよ!」
まぁ大方推察は付いていたが。流は脱力する。
流は自分の誕生日を知らなかった、というよりも興味が無かったので自分の親に訊こうともしなかった。
「今日、流ちゃんの誕生日で、18歳は大人になる歳だから、だからジャマモノは退散するから二人きりで祝ってやれって、言われたんだ」
「邪魔者って…」
賢はその意味が良くわかっていないのだろうが、流の頬は紅潮する。
「あの馬鹿親……」
顔をしかめる流の顔を不安そうに賢が覗き込んでくる。
「…イヤ、だった?」
そのいつまでも純粋なまなざしに、流の眉根が緩み、自然と微笑みの表情になる。
「すごく、嬉しいよ。ありがとう、賢…」
言ったところで、くしゃみが出た。
外気に吹きさらしのこの場所は、建物の中とはいえかなり寒い。
肩を少し震わせると、賢の外套がその上にかけられた。
「賢」
「着てて。僕はへいき」
「だが…」
脱ごうとする手を包み、賢はそのまま流の体に腕をまわした。
「僕はへいきだから」
流は、鼓動の高鳴りを感じていた。
いつも賢がして来る「抱きつき」ではない、抱擁。
衣服越しに伝わってくる体温、背中に回された大きな手のひらの感触。
出合った頃は同じくらいの背丈だったのに、今は賢のほうが頭ひとつ分大きい。
体つきも、痩せた体に少し柔らかみを帯びてきた流とは異なり、しなやかに引き締まっている。
いつの間に、こんなに大きくなったのだろう、とぼんやりとした頭で思う。
「…流ちゃん」
すぐ耳元で賢の声が響く。
「ぼくと、結婚してください」
暗い部屋。月明かりの中、賢の顔は真っ赤になっていた。おそらく、流自身も。
「流ちゃんが、好き。誰よりも…何よりも」
少しの静寂の後。流はゆっくりと頷いた。
目に、涙を少し浮かべて。
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