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天の宮で迎えた太陽は、地上よりも近く、眩しく感じた。
流はまず樅の木の林を見つけ、その枝を数本づつ刈り取り、生垣の上に置いて乾かした。
それから松の木を探し、拾った八手の葉の上にたっぷりと松脂を溜めた。
それらを持って再び生命の木の前に立つ。
「少し、痛いかもしれないが我慢してくれ」
『何をするの?』
木の問いかけには応えず、流は剣を創り出すと、その木肌にあてた。
そして、一息に削りだす。
寒さに弱り、腐り萎れた部分を。
『あなた…』
「枯れかけている、と聞いていた。そして俺が呼ばれ、あなたの後継として神と交わった。でも俺にはまだやりたいことがある。だから、どうにかしてあなたを治す」
根のほうがより酷く腐っていた。
下草を掻き分け、掘り出し、巣食った虫たちを一つ一つ取り除いてゆく。
悪くなった部分を大方削ると、中身の見えた部分に松脂を塗る。
最後に防寒の為に乾いた樅の枝を蔓草で巻きつけた頃には、陽は西の空の果てへ沈もうとしていた。
これで、出来ることは全てやった。
いや
まだ残っていた
その幹に両手をかざし、心を集中させる。
傷つけるのではなく、この者を癒したいという想いを込めて。
柔らかな光が生まれ、木を照らした。
光は増幅を続け、その明るさに天使たちがやってきて、そして驚いた。
「新たな母様!何をしていらっしゃるのですか?!」
体も服も土やら草の汁やらで汚れ、顔は疲れ果て青白くなっている流を見て。
流は振り向きもせずに応える。
「俺は母ではない。お前たちも手伝え。母を、治すんだ」
天使たちは顔を見合わせた。
やがて戸惑いつつも樹木と、流を取り囲み、同じように優しい光をその手のひらから出す。
生命の木が嬉しげに葉を揺らした。
『ありがとう』
その声は流にだけ聞こえたようで。
『あなたからは天使たちよりも強力な力を感じる』
流の口から少しだけ笑みが漏れた。
「強力?俺は無力だ。俺の翼は飛べもしない骨の翼だった。今は…なぜだか、飛べるようになったけれど」
『あなたの力が強力すぎたから、無意識に自分で封じていたのよ』
「…それが、賢を殺された怒りで開放された、か。遅すぎだ。もっと早く開放していれば、賢は…」
左手の、指輪を眺める。視界が、霞んだ。
「強い力など、持っていても仕方が無い。すべて、あなたに、あげるよ」
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