《14》
「とりあえずさぁ、明美捜すより先に、ケンカのコトすっきりさせたほうがいいと思うんだわ」
ブラック家の台所の床に全員輪になって正座している。
「連賀さぁ…思い当たるフシ本当に無いん?」
ブラックは俯いたままかすかに首を横に振る。普段は頭の後ろで結っている長すぎる髪が顔の横でバラバラと揺れ、彼の落胆ぶりと幽霊っぽさを増長させる。
「じゃあさ〜 怒って殴ってきたんだろ?その直前て明美なにしてたよ?」
ブラックは少し考えてからおもむろに立ち上がり、比較的片付いているラックからノートパソコンを取り出して起動させた。
数操作の後、イエローと輪花の前にパソコンを寄越して見せる。
ディスプレイに映っていたのは、一人の少女の写真。
「あ〜、ネットアイドルのメィミやっけ?兄ィ大好きやんな。2、3日前にオフィシャルサイトいきなり閉鎖したんやったね」
兄ィこれもショックやったんね、という妹の言葉にブラックは頷く。
「て いうかさー……」
イエローはブラックの薄い肩に腕を回す。その急な行動と半笑いの表情をブラックは訝しんだ、その1秒後。
「これ、明美じゃん!!!」
瞬時にイエローの左腕がブラックの首に巻き付き、そのまま締め上げた。
「これ見せたってか?そりゃ怒るわ!気付かなかったんか?なんで気付かねぇんだよ!お前アホかぁぁ?!」
手加減は、している。
イエローの中にわずかに残った理性と良心が、ブラックが気絶する直前で彼の首を絞める力を緩めさせていた。
「つーかなんで明美は女装でネットアイドル?!お前も明美もワケわかんねぇよ手間かけさせんじゃねぇよ!!こちとら兄弟親戚にメーワクかけて世界的に重要な任務すっぽかして来てんだよ!!これで国際的問題勃発したらどーしてくれるんじゃボケぇぇェェェェ!!」
しかしオチる直前で寸止めするという優しさは、世間では拷問というに違いない。
「はいハイそこまで。右近くんと兄ィが絡んでもあんまり萌えんわ〜」
イエローがひとしきり怒りを吐き出し終えるのを待ってから、輪花はテキパキと二人を引き剥がした。ブラックが呼吸できることへのありがたみを噛みしめる横で、輪花はイエローにノートパソコンを見せる。
「この書き込み…なんやヤバくない?」
どれ、とイエローはまだ少し不機嫌なままディスプレイを覗き込んだ。
それはインターネットの掲示板だった。
「ここ、マニア向けの情報交換場所でね。メィミ関連情報専用のスレなんやけど」
輪花もイエローの横に座り、画面を指さす。
------!オフ会のお知らせ!------
もうすぐ人類は滅亡します。残された最後の時間を現代の女神メィミちゃんと過ごしませ
んか?
みんなでこの混乱した世界にお別れしましょう。メィミちゃんの美しい魂が私達を天国へ
導いてくれることでしょう。
日時・場所:JRバキ葉原駅〇〇〇……
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「こりゃあ かなりヤバいなぁ…」
「集団自殺…ぽいわよね。この『メィミちゃん』が明美くんだとしたら……」
イエローはもう一度ディスプレイに目を走らせた。オフ会の開始時間は18時。今は16時だからバキ葉原まで電車でも十分間に合う。
会場の場所を手近な紙に走り書きすると、イエローは立ち上がった。
「いくぞ!」
ようやく体調が立ち直ったブラックは力強く頷き、床に落ちていたいつもの黒いレザージャケットを羽織り、玄関のドアを開けた。
イエロー、輪花もそれに続いたが、ブラックは輪花に向き直ると、自宅に帰れ と言うように彼女の肩を駅とは逆方向へ押した。
「兄ィ、ウチもいくで!心配やもん」
ブラックは首を振り、今まで自分達を心配して傍にいてくれたことを感謝するように、ポン、ポン、と肩を優しく叩いた。
輪花はそんな兄を少し睨み上げ、それから見惚れる位に美しい笑顔を作った。
「わかった。しっかりやりぃ」
そして踵を返して歩き出し、
「ちゃんと騎士が姫を助け出す要領で明美くん助けるんやで!どさくさに紛れてキスするんやで!!」
一度振り返り叫ぶと、後は走って行ってしまった。
「…素敵な妹さんをお持ちで」
イエローの力無い声にブラックはうなだれるように頷き、そして長い髪をキリリと結び、
2人は、バキ葉原へ、駅へと走り出した。