《15》

 

話は、2日前に遡る。

ブラックと仲たがいしてしまったグリーンは、仲直りをしようと階下の親友の部屋を尋ねた。彼の大好物の具のない茶碗蒸しを土産に。
鍵がかかっていたので合い鍵で中に入る。
朝の8時に訪問するのは世間的には迷惑行為だが、グリーンがブラックをたたき起こしに行くのは、2人の間では日課のようなものだった。

「ブラック?朝だよ。」

いつもと同じで、1日ぶりの、台詞。

親友を殴ってから2日が経った。
怒りよりも気まずさよりも、仲直りしたいという気持ちが何よりも強くグリーンの中にあった。

「ブラック?」

返事がないのはいつものことだが、気配すら無い。
機械類の間をすり抜け、デスクの下を覗き、押し入れを開ける。
風呂場もトイレも探した。しかし、ブラックの姿は無い。
ブラックは引きこもり傾向のあるオタクだ。朝帰りなどするはずが無い。夜型人間なので早朝から外出なんて、もっと、無い。

グリーンは急いでスニーカーをつっかけ、親友の部屋を出た。

馬鹿っぽいとわかっている。
おとなしく、帰ってくるまで部屋で待っていればいいじゃないか。
わかっている。でも。

ブラックに早く会いたい。

会わなくてはいけない。

グリーンは駆け出した。親友を、捜しに。

 

 

自宅付近を当たったもののみつからず、グリーンは電車に乗り、中野に降り立った。
ブラックに連れられて数回来たことのある、マニアックな店が並ぶ街。
見覚えのある店を中心にしらみつぶしに捜すが、あの黒ずくめのひょろながい姿は見当たらない。

いつの間にか、雨が降り始めていた。
グリーンは傘もささずに裏路地を巡った。前髪が額に貼りつき、目元に流れをつくる。

「明美くん?」

突然後ろから名を呼ばれた。
足を止め振り向くと、金の髪の背の高い女性が立っていた。

「ドラリンさん…?」

ドラリンは前髪とサングラスの隙間からのぞく形のよい眉をひそめた。
彼女は何も言わずに折りたたみの傘をグリーンの上に傾け、アイスブルーのパンツのポケットから出したハンカチをグリーンに差し出す。

冷たい雨が遮断され、グリーンは自分の目元から顎にかけて流れる水が温かいことに気づいた。

素直にハンカチを受け取り、顔を拭こうとしたが。
手が震えて止まらない。ハンカチが手の中でクシャクシャになる。
ドラリンはグリーンの肩に優しく手を置いた。

「ウチで、服乾かそう?」

グリーンは頷き、大粒の涙が数滴、雨と共に地面に跳ねた。

 

 

ドラリンは、ただの変な名前の外国人では、ない。(多分偽名だけど)
日本国の防衛省に所属し、かなり偉い立場―防衛省マル秘特殊部隊『ホンゲダバー』の、司令官。つまり、なんとかレンジャーの同業者なのである。しかも、そっちは国立。
なんとかレンジャーとはひょんな縁で知り合った仲で、互いの事情がよくわかるだけに同じ穴のムジナ同士、週末に居酒屋でグチを言い合う仲である。

そんなわけだから、国家公務員でお偉いさんのドラリンの自宅は目黒にほど近い高級分譲マンションだ。

ジャグジー付きの広いバスルームで熱いシャワーを浴びて、グリーンはようやく落ち着きを取り戻した。

「服、干してるから、とりあえずソレ着ててくれ」

グリーンが浴室を出たちょうど良いタイミングでリビングからドラリンの声がかけられる。
見ると脱衣籠には先ほど脱いだびしょ濡れの服の代わりにバスタオルと白っぽい衣服がきれいに畳まれ、用意されていた。

グリーンは感謝の気持ちと共に湯気の立った体を拭き、用意された服に袖を通し―――

「ど、ドラリン…さん?」

「やぁ、似合ってるじゃないか」

散らかったリビングを片付け中のドラリンは振り返り嬉しそうな声を出した。
白いフェミニンなワンピースを着たグリーンを見て。

グリーンの感謝の気持ちはみるみるうちに萎んでいき、それと同時に思い出した。
ドラリンもまた、自分の女装を見て喜びまくっていたことを。

 

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解説します。
ドラリンさんは同士・白後奈美さんの書いている戦隊モノ小説『ホンゲダバー』のキャラクターです。
最終回なので、登場許可を頂きました。
彼ら主役の話はとっても面白いし、こっちの話もよりいっそう楽しめる気がするので
よろしければ読んでみてください。
白後奈美さんのサイト→http://www.rosenet.ne.jp/~tamayo_n/k_top.html
『ホンゲダバー』のページ→http://www.rosenet.ne.jp/~tamayo_n/original/original.html
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