《18》
オフ会の会場は、どうやらつぶれたライブハウスの跡地のようだった。
会場へ続くドアの外からでも、大きなざわめきが聞き取れる。
「行きます、か」
ブラックが強く頷いたのを合図に、イエローは防音扉を勢いよく開け放った。
50人ほどだろうか。思っていたよりも多くの人間が小さなライブハウスのホールに集まっていた。
そしてステージ上に首謀者と思われるエンジ色のパーカーを着たの男が一人、と、その横にはグリーンが、椅子に座っていた。
グリーンは両の手を手錠で封じられ、ロープで椅子に括りつけられている。彼は目を見開き、恐怖に身を凍らせているようだった。
ブラックは奥歯を噛み締めた。
そうすることで第三臼歯に取り付けられたなんとかレンジャーの変身システムが起動するのだ。
わずか0.5秒で変身スーツの装着が完了する、と同時にブラックは特殊ゴム弾拳銃の引き金を引いた。
銃声がライブハウス内に響く。
グリーンに架けられた手錠の鎖が千切れ飛んだ。
「ちょ〜カッコいいじゃん ブラック」
イエローは呟き、同様に変身する。
2人が変身したのは全くもって賢明な判断だ。ブラックはこの世界の人間の中では有名人だし、イエローは先の格闘技の大会で全世界のメディアに顔を晒してしまった。
そんな2人が拳銃やらスタンガンをもって暴れた、などと知られては真っ当な社会生活を送れなくなってしまう。
変身スーツはこの場合、武装と同時に正体を隠す役割を担っているのだ。銀行強盗がかぶるストッキングと同じようなものである。
「な、なんなんだ お前ら?!」
ステージ上のパーカーの男がうろたえつつも叫んだ。
フロアにいる男たちも皆驚きの目で2人をかえりみた。
ブラックはその問いかけを無視し、ひとつ、ふたつ、と続けざまに発砲しつつ駆けだした。
今度は首謀者の両足が悲鳴を上げ、彼は板張りのステージに崩れるように膝をついた。
「やぁっぱ、キレたか〜」
グリーンの手錠を切るまでは冷静だったんだけどな〜 とイエローは呟き、ブラックに続いてステージへ向かって走りだした。
「え〜とね、俺たち正義の味方なのね。さらわれたお姫さまを助けに来たんだわ」
言いつつ、イエローはブラックを制止しようとした男をスタンガンで気絶させた。
「ブラック、こっちはなんとかしてやっから早く助けてやれよ!」
走るブラックの背中に呼びかけるが返事はない。人の声など届かない位に怒り狂っているのだ、彼は。
イエローは心の中で誘拐犯に哀悼を捧げ、そして左側から殴りかかってきた拳を軽く受け止めて逆関節に捻りあげ、右側の奴は足を引っ掛けて転ばせスタンガンで気絶させた。
「こーなりたくなかったら大人しくつっ立ってな!まぁかかって来ても手加減くらいしてやるよ!」
パーカーの男は胸を撃たれステージ上に倒れた。ブラックは心臓を狙ったのだが、ゴム弾だったので肋骨にヒビが入った程度で済んだようだ。
ブラックは勢いよく跳躍し、ステージに着地すると、仰向けに倒れ咳き込むパーカーの男の前に仁王立ちになり、銃口を彼の額に定めた。
ゴム弾といえども至近距離で発砲されれば惨事は免れない。
「ゆ、ゆるして、ください…っ」
男の口から悲鳴に近い哀願が漏れた、が、その声はブラックの心に響くことはない。
彼の人差し指が無慈悲に引き金を引く―――
「やめてっ!!」
銃声に、人の声が混ざった。
パーカーの男の頭部は無事で、代わりに腰の下辺りから液体を流している。
ブラックは自分の背中に暖かい存在を感じた。
「銃、下ろして?」
今まで何も受けつけなかった心の中に、不思議と滑り込んでくる声。
ブラックはその声に従い銃口を床に向け構えていた腕を下ろした。
その時になって彼はようやく気づいた。
背後から伸びる白い小さな手が黒い銃の砲身を強く掴んで、弾道を逸らしたことに。
ずっと探していた大切な存在が、自分を後ろから抱きしめて、自分を止めてくれたことに。
ガシャリと音を立てて、拳銃がステージの床に落ち。
ブラックはグリーンの小さな体を力一杯抱きしめた。