《19》
突然抱きしめられたグリーンはブラックの腕の中で少し身じろいだがすぐに体の力を抜き、ブラックの背中を優しく撫でた。
「…やっと会えたね」
ブラックはグリーンの肩に回した腕にギュッと力を込めた。
と、
突然後頭部に硬い感触がし、ブラックは驚き振り向いた。
「お取り込み中、すいまっせ〜ん☆でも敵前に武器を落としちゃいけないぞぅ?」
イエローがブラックの拳銃のグリップを後頭部にゴリゴリ押し付けていたのだ。
「あっ、イエロー! ありがとう来てくれて」
グリーンは今の状況を思い出しすばやくブラックの腕から抜け出す。
「いいぇ〜 てゆーか、グリーン自力でロープ解いたん? うわっブラック失格!ダメ山ダメ次郎!!」
イエローは罵倒しつつブラックの手のひらに拳銃を置いてやってから、フロアを見下ろした。気絶している者以外はイエローの命令により全員正座させられている。
「で・さぁ、な〜んでヒトさらって〜、みんなで集まって自殺〜とか考えたワケ?」
グリーンは不安げに眉を寄せ、ブラックは返答によっては脳天に風穴開ける、といった風情で事の次第を見守る。
イエローの問いに答えたのは、首謀者の乾いた笑い声だった。
「もうすぐ、人類は滅亡するんだ」
「……えェ?」
訝しげなイエローの声に、彼は腰が抜けているのか、仰向けに倒れたまま力無く笑んだ。
「知らないんですか? 隕石群が数日中に地球を襲う。そうしたら人間なんて生きていられないさ。みんな死ぬんだ。」
「隕石群?」
イエローはそんなアホな、という反応をしたが、グリーンとブラックはインターネットで同じ内容のニュースを思い出した。
「しかし、全てはポジティブに考えなければいけません。メィミちゃんの穢れなき血を差し出せば僕たちは天国へ行けるんですから!」
首謀者の狂ったような笑い声に、賛同するいくつもの声が混ざった。
「そうだ!死にたくない!!」「俺たちは天国へ行くんだ!」
彼らは正座していた足を崩して立ち上がりフラリフラリとステージに近寄ってくる。
「血を」「メィミちゃんの血が必要なんだ」「ただ死ぬなんて嫌だ」「メィミちゃんと一緒に天国に行くんだ」
「ちょ、それがどーいうことか、お前らわかってんのか!?」
イエローの制止の声をかき消し、首謀者の笑い声が一層大きくなった。
男たちがステージの端に手を掛け、まさにグリーンに殺到しようとした、その時。
「みんな、あきらめないで!!」
グリーンの澄んだ声が響いた。
その場にいた全員が動きを止め、口をつぐんだ。
グリーンは自分を庇うブラックの腕を解き、ステージの中心に進み出る。
「死にたく、ないんだよね?」
愛らしく華奢な容姿には不釣り合いな芯の通った声。
凛とした雰囲気に皆、息をのんだ。
「だったら生きることをあきらめないで。 僕はみんなを天国に連れていく事なんてできない。でも」
グリーンは奥歯の変身システムを起動させ、緑色の戦士の姿になった。
「隕石群は僕と僕の仲間たちが止めてみせる!人類を、みんなを死なせはしない!だから、生きる意志を棄てないで!!」
皆、呆然と口を開けていた。
超絶可愛いピュアピュア系ネットアイドル『メィミちゃん』が目の前で戦隊系ヒーローに変身したのだから。
しかも緑色。ピンクじゃなくて緑色。
「ブラック、イエロー、行こう!」
グリーンはメィミ信奉者と同様に呆然としていた2人の手をとり、ステージを飛び降り呆然と立ち尽くす人垣をかいくぐり走った。