《25》
数年前の闘いで親友のものとなったマフィアの事務所は、位置を変えていなかった。
善太は灰にくすんだ小さなビルの最上階を目指す。その間に彼の顔と数年前の伝説を知る多数の組員につかまり、敬礼された。
歓迎の酒や食物や女を勧められるのを何度も断り、ようやくたどり着いた最上階の錆の浮いた鉄のドアをノックもせず開ける。
「すごい騒ぎだな。街じゅうがかつての英雄の帰還を喜んでいる」
薄暗いがきれいに掃かれた部屋の奥、窓辺にたった一人立つ青年が振り向き、善太に微笑んだ。
「久しぶりだな、ゼン」
「元気そうだな、ヤーマ」
タイマフィアのボスは目を細めた。
「名前で呼ばれたのも、久しぶりだ」
「そうか。だったらオレがたくさん呼んでやるよ」
善太は室内を横切り、ヤーマと並んで窓辺に立った。
「そうすれば、素人に危ないモノを流すのをやめるか?」
善太からも、ヤーマからも、笑みが消えていた。
「日本でもこの国でも、素人が随分物騒なモノを持つようになったな。クスリ好きも増えた。表の世界は巻き込まないのが、お前の信条じゃなかったのか?」
親友を見つめる善太の眼光は鋭く、瞳の奥で幾色の光が炎のようにうねっている。
ヤーマは目を逸らすことなくその光を真正面から見据えた。
「金が必要だ。あと人足もな。両方ともオモチャとクスリで簡単に増やせる」
善太の瞳が一瞬閃いた。
鈍い音と共にヤーマは床に叩きつけられた。左の頬に拳で殴られた痛みが遅れてやってくる。
ヤーマはゆっくりと立ち上がり、そして善太の顔面を拳で狙った。善太はそれを避けずに左頬で受け、同時にヤーマの右頬を殴った。2人の腕が、綺麗に交差する。
よろめいたヤーマの腹に善太はもう一撃入れ、そしてヤーマはもう一度床に崩れ落ち、再び立ち上がることはなかった。