《30》

 

エレベーターはしばらく下った後にようやく停止した。
どうやらこの建物は縦に長く、ヘリが止まった格納庫は最上階だったらしい。

重厚な金属シャッターが音も立てずに自動で開く、と、彼らの眼前にはSFモノの映画かロボットアニメに出てきそうなテクノロジー最先端な中央司令室が広がった。そしてその司令室の一段高い場所、壁の一面を覆う巨大モニターを背にした中央の席に座っているのが

「ドラリンさん!」

だった。

声を揃えて自分の名を呼ぶイエローとグリーンにドラリンはにこやかに片手を上げて応える。

「やぁ、待っていたぞ」

「ドラリンさん達の基地って市ヶ谷の防衛省ビルの中じゃなかったん? 引っ越し?? つかここどこ?!」

「ということは僕たちは引っ越しの手伝いで呼ばれたんですか? いいですよ手伝いますよまずは台所まわりの掃除を…」

人類の英知と国家予算をつぎ込みまくったこの部屋に圧倒されてイエローとグリーンはアワアワし。
その一方でブラックはこの司令室に無言でうっとりしている。彼は往年のロボットアニメ(特に『新世紀エヴァンゲリオン』。好みの女性キャラはオペレーターのショートカットのお姉さん)も大好きなのである。

「2人とも落ち着いてください。あとブラック、デジカメでの撮影は遠慮願えますか?」

「ブルー!!」

イエローとグリーンが室内に姿を見せた久々に見る仲間のコードネームを嬉しそうに呼ぶのと、ブラックがピンクにデジカメを取り上げられるのは(そして中のメモリーカードを素手で握りつぶされるのは)ほぼ同時だった。

「ここは富士山の近く、青木ヶ原樹海に急遽建設されたマル特部隊臨時基地です。そしてその目的は―…」

「ちょい待て! それは本来私が言うべき台詞だろ?! つーか普通に私の隣(副司令官席)に座るなよ!」

「なんですか1人だけ偉そうな場所に座って……」

「偉いんだよ! 私は司令官なんだよコノヤロウ!!」

ドラリンに強制的に副司令官椅子からどかされたブルーは舌打ちをしてから、部屋の隅に移動し不本意そうに壁に寄りかかった。

「まぁいいですけどね。これ以上のことは知りませんし。さっさと言ってくださいよ。私達をここに集めた理由を」

「ムカつく…… それはそうと君の迎えに行った睦実はどうした?」

「データ入力と演算の見直しがまだ終わっていないそうなので、地下のラボに戻りました。
『司令官をいつか三途の川に突き落とす』とか『臨死体験させたい』とか言ってましたよ。戦闘要員を充実させるのは結構ですが、チームとして些か能力的に偏りが……」

「うんまあそれで君たちに来てもらった目的はだね!」

ブルーの長くなりそうな説教をドラリンは勢いを武器に中断させた。
ブルーは少しムッとしたものの話の続きを聞きたいので大人しく口を閉じる。

「…隕石群が地球に迫っている、というニュースはもう耳にしたか?」

ドラリンは急に表情を引き締め、司令室内にいる全員をくまなく見回した。その真剣な雰囲気に皆自然と姿勢を正す。

「知って、ます。一部のマニア達の間で広まっていますが、……本当なんですか?」

グリーンのためらいながらの問いかけに、ドラリンは重々しく頷いた。肯定の意味で。
グリーンをはじめイエロー、ブルーまでもが驚愕のような悲鳴のような声を漏らし、ブラックは眉をひそめドラリンを見つめた。

「……どこから情報が漏れたかは調査中だが、アングラコミューンで囁かれている内容で大体当たりだ。隕石群は地球に向かっているし、その中にひとつ、推定直径501.7万キロメートルの巨大隕石がある。
地表でも海上でも、それが落下し衝突すれば人類史は終わる。」

ドラリンの言葉は淡々としていて、ひどく現実味がない。
いや、現実ではない、と信じたいからそう聴こえるのだろう。

「いつ……なんです?」

ブルーの質問に目的語はない。しかしそれは明白だった。

「明日正午。誤差はプラスマイナス1時間だ」

あまりにも近い終焉の未来。
グリーンはよろめいてその場にへたり込みそうになり、ブラックは彼を素早く抱き止めた。

「一般人に告げるのは明日7時だ。同時に各主要都市の地下シェルターへ避難させる」

「シェルターで、回避出来るものなんですか?」

問うたブルーの声は冷静さを失ってはいない。ドラリンは表情をよりいっそう堅くし頷いた。

「私達の任務は巨大隕石を破壊することだ。」

明仁らドラリンの部下4人は、既に聞かされていたのだろう。俯き、彼女の言葉を静かに聞いている。

「飛行艇型の高密度レーザー砲を打ち上げ、成層圏内で巨大隕石を分解する。ここはそのための発着基地だ。」

しばらくの沈黙。

イエローは笑っているような愛嬌のある目を大きく見開き、グリーンは背中に冷や汗を感じながらも懸命に倒れまいと両脚に力を入れ、そのグリーンを支えるブラックも、微かに体を震わせていた。

そして腕を組みドラリンを睨むように見つめていたブルーが口を開いた。

「それで、私達を呼んだ用件は?……まさかそのレーザー砲に乗れというんじゃないですよね?」

ブルーの不安を紛らわせるかのような皮肉に、ドラリンは静かに首を振った。

「君達が乗るのではない。……見て、もらいたいものがあって、ここへ招いたんだ」

ドラリンはパソコンのキーボードに似た操作盤を手元に引き寄せ、手早くキーを叩く、と、彼女の背後の巨大モニターに光が入り、一人の人物が映し出された。

「レッド?!」

ブルーとイエローとグリーンの声が重なった。
モニターに映し出された彼、なんとかレッドこと北島善太は頭も体も包帯にまみれた真っ白な姿でベッドに腰掛けて、普段と変わらない明るい笑顔をこちらに向けていた。

 

    

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