《55》

「よお! 久しぶり!!」

引き戸が開く音と同時に、元気の良い大きな挨拶が店内に飛び込んできて、4人は瞬時に入口へ振り向いた。

そこに立っていたのは

「レッド!!」

ブラック以外の、3人の声が重なった。

「みんな元気そうだな」

いつもの底抜けに明るい笑顔をニコニコさせながら、彼はテーブルへずんずんと歩を進める。

「遅刻ですよ?」

ブルーの台詞は責めるような口調だが、彼の顔は、いや、4人全員の顔は嬉しさにほころんでいる。

「途中嵐に遭って、日本につくの遅くなった。ごめんな」

「また日本海を泳いで渡ってきたんですか? そのうち他国のスパイと勘違いされて海上自衛隊に捕まりますよ?」

「んー? 平気だろ」

レッドとブルーの相も変わらずで懐かしいやり取りを、イエローとグリーンとブラックは微笑ましく見守る。この2人の口論を見るのは実に3年ぶりのことだった。

「全く……連絡しなさいといつも言っているでしょう? あの時だって1週間も消息不明で……」

ぶつくさとお説教をするブルーをレッドはきょとんとした顔で見返す。

「あの時?」

「あなたが隕石を破壊した時のことですよ!!」

ブルーの不機嫌メーターが瞬時にして最大値を越えて彼が怒鳴ったというのに。レッドはマイペースに10数年前のことを回想し、ワンテンポ遅れてから「ああ!」とようやく納得した。

「『ああ』じゃないでしょう?! 私達が一体どれくらい心配したと思っているんですか!!」

巨大隕石が見事破壊された、と同時に、レッドが乗り込んだ飛空艇型レーザー砲『グングニル』も大破した。
通信はおろかレーダーでの捕捉もできず、レッドの捜索作業は難航し、墜落から6日間経っても『グングニル』の破片が2つ3つ、大気圏を落下してなお燃え残った残骸として発見されたのみだった。

おそらくレッドも宇宙と空の境で燃やされてしまったのだろう、と誰もが希望を手放し悔恨の情にかられた、7日目のことだった。
太平洋上を日本に向かって真っ直ぐに泳ぐレッドを海上自衛隊のレーダーが捉えたのは。

レッドは燃え盛るコックピット内で咄嗟にヒーロースーツに変身した。
耐熱耐衝撃に優れたスーツは大気圏内の熱と海面に激突した際の衝撃からレッドをかろうじて守り、役目を全うして壊れたという。

彼は全身に火傷と打撲傷を負っていたが、落下の衝撃に奪われた意識が回復するやいなや半ば本能的に日本を目指して泳いだ。
そして7日目にして自衛隊に保護された彼は病院に搬送されて無事治療を受け、1週間も経たないうちに健康体へと戻り医療スタッフたちを驚かせ、一緒に入院していたイエローをして「超人」と言わしめさせた。

なんとかレンジャーが解散すると、レッドは日本を出、世界中を旅するようになった。
それは『世界を見たい』とか『自分を探す』とかいうのではなく、幼い頃から父親に連れられて世界を旅して回った彼にとっては最も自然な生き方だったのだ。

ただ、世界中をほっつき歩いているといえど親友の待つタイと、それから日本にはちょくちょく訪れるようにしている。
ちょくちょくとは言うが半年から数年に1度帰国、のレベルなので帰国するたびにブルーに「心配させるな」と叱られるのが現状なのだが。

「うん、シンパイしてくれてありがとうな」

レッドがニヘ、と笑いかけると、ブルーは「もういいですけど…」とまだちっとも良くなさそうな様子で深く溜息を吐いた。

「ブルーは嫁さんもらって子どももできたのに全然変わってないな。怒りっぽいところとか」

レッドの悪意のない分析にブルーは再びイラッとする。
カウンターから出てきたイエローが「やっぱレッドは格違うな。あんな光速でブルー怒らせるなんて俺にはできねーもん」と独り言のように呟く。
グリーンとブラックはいつのまにか店内の隅に移動して事の次第を見守っていた。わかっていないのは、レッド本人のみ。

「そうですか?」

ブルーは表面上は優しい笑みを湛えつつ、無神経男の鳩尾に手刀を突き刺そうか、それともこめかみに踵回し蹴りを打ち込もうかで迷っている。

「そう。みんな、変わってない。ブルーは怒りっぽいし、イエローはヘラヘラしてるし、グリーンは優しすぎるし、ブラックは静かだ」

でも、と言葉をつなげつつ、レッドはかつての仲間一人一人と目を合わせた。

「変わったところもあって、変わってないところもある。だからオレは安心して、日本に帰ってこられる」

言い終えると、レッドは「日本語たくさん喋るの疲れた」と言うなり空いたイスに腰を下ろした。
その様を4人は呆気にとられた表情で見守る。
と、彼らは互いに顔を見合わせフ、と笑んだ。その微笑みは次第に大きな笑いへと変わる。
突然楽しげに笑い出した仲間たちを、レッドは不思議そうな目で見た。

「そうだね、僕ら、全然変わってないかも、ね!」

嬉しそうに言うグリーンの横で、普段は表情を崩すことのないブラックも口の端を僅かに上げて笑んでいる。

「さーてそれじゃ、全員揃ったトコで乾杯いたしましょっかー」

イエローがてきぱきとビールジョッキを皆に回してゆく。(グリーンにだけはウーロン茶を渡した)

「それでは、再開を祝しまして―――」

ブルーがいちはやくジョッキを掲げ、音頭をとった。

「「「乾杯!!」」」

5つのグラスが鳴り響く。

かつて共に戦った友たちとの再会を祝う宴を、彼らは大いに楽しみ。
夜は、騒がしく更けてゆく。

今も昔も拙い言葉で、おそらくレッドはこう伝えたかったのだ。
『自分達の絆は、けして変わることはない』 と。

〜おわり〜

 

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ここまで読んでいただいて、ありがとうございました!おつかれさまでした!
この後、あとがきを書いてみました。
キャラについて語ってたりもするのでそういうのOKな方は、どぞ。

→あとがき

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