「ゆ…遺言?」
「ええ。早くして下さいね、我々も暇ではありませんから」
ドラリンがブルーの台詞に戦慄を覚え、ちらりと狙撃手を見やると、黒コスチュームの人物が、照準を自分に合わせたままフリーズしている。辞世の句を詠むのを待ってくれているようだった。
「…私はドラリンだーっ!」
叫ぶなりドラリンは閃光弾を作裂させ、なんとかグリーンとともに、雲隠れ!
「消えた!?」
なんとかイエローは、怪奇現象を目の当たりにして硬直した。彼の黄色いコスチュームの下はチキン肌になりおおせているに違いない。
「……」
ブラックは、ドラリンの行動をものともせず、小型テレビのようなものをバッグから取り出した。
「何だそれ?」
なんとかレッドがのぞき込むのにつられ、なんとかイエローもブラックの持ち物に注目した。
「赤ランプが点滅して動いてる…?」
ブルーがどれどれ、と見てみると、なるほど、なんとかイエローの言うとおり、画面には地図が描かれ、その上を米粒大の赤いランプが点いたり消えたりしながら右へ左へ移動している。
「発信機ですか」
「やっぱりな!そうじゃないかと思ってたぜ〜!」
「お黙りなさい…この地図はどこの地図ですか?ブラック」
自分の台詞に便乗する、なんとかレッドに氷点下の視線を送りつつブルーは尋ねた。
「…ここ…」
「…」
「まさか、国家機密ハッキングしたんか?」
何も言えないブルーの代わりに会話を続ける、なんとかイエローの台詞に、黙って頷くブラック。彼は画面を見るなりスタスタと歩き出した。
「行こうぜ!」
「それは俺の台詞だー!」
なんとかイエローにリーダの特権を踏みにじられた(と思っている)なんとかレッドは、カレー好きの彼をなじる。
「黙れ単細胞。…とにかく彼について行きましょう」
相変わらずブルーは、なんとかレッドがリーダーであること以前に、彼の人権を認めていなかった。
「どうりゃあぁー!!」
通算57枚目の対侵入者用の防護ドアを、武器をいっさい使わずに打ち破る なんとかレッドは、ある意味鉄人だ。
「…向こうにいる…」
「では、行き」
「行っくぜー、皆!!」
最後のドアを指差すブラックの言葉に頷いたブルーが、突入の合図をしようすると、それを遮るように、なんとかレッドが叫ぶ。
「寝てろ」
怒れるブルーの繰り出す手刀(というにはあまりにも殺傷力の高いもの)は、なんとかレッドの体を医学的にはありえない方向へ曲げた。
「レッド、動かなくなったな…」
「体力馬鹿の出番はもうありませんから大丈夫ですよ、イエロー。…では、行きますよ、皆!」
ドアはブラックの銃弾によりあっけなく壊され、開かれた。
「グリーン無事ですかっ!?」
「…って、え?」
「…………!?」
なだれ込むブルー・なんとかイエロー・ブラックが見たものは!!
「次はこれ着てもらおうかな〜…」
「はい、いいですよ。それにしても、いま僕が着ているこの女性用の民族衣装といい、よくここまで集められましたね、ドラリンさん」
「当っ然!私には世界中に仲間がいるからな!」
「へ〜。世界中にですか?」
得意げな彼女に、なんとかグリーンは感心してみせた。
「それにしたって何でキミは、これ着るのに、あんまし嫌がんなかったのだ?」
「だって姉さん達に同じような事散々されてたから。慣れました」
ドラリンの問いに、なんとかグリーンは、戸惑いながらも正直に答えた。
「そうだったんか」
「はい。皆に見られるのが嫌だっただけなんです」
じゃあ着るのはいいんかい…とドラリンは思いつつ、これからも、なんとかグリーンにコレクションを着て欲しいがために黙っておく。
「あ、そう…。んじゃ、写真撮っていい?」
「いいですよー」
「笑って笑ってー…って本当に朝飯前だな。ポージングもいいねぇ。撮るよー」
ドラリンがシャッターを押すと同時に、ブルー、なんとかイエロー、ブラックがフレームに入って、はい・チーズ。
「どどどどどうやってここが?!」
ドラリンは予測しえなかった事態に、カメラを落としかけた。