死屍累々。いつの間にやら地獄絵図。
「なんか、やけに静かじゃねぇ?」
ドラリンは周囲の花見客の様子がおかしいのに気付き、ホワイト・ブルーに問いかける。
「そういえば全然話し声がしない…っていうか、皆泣いてる?!」
ホワイトは見回しながら異変に目を丸くした。
「何があったのか聞いてみましょう」
ブルーは言うなりすっくと立ち上がり、しっかりした足どりで一番近いグループの中年サラリーマンらしき男に近付く。
「…スゲーな庵は…」
「ええ。一升瓶を空け、かつ焼酎をストレートで五杯飲んだとは思えないですよ」
ドラリンの呟きに、ホワイトはブルーの後ろ姿を見送った。
「どうしました、何があったんです?」
「うっうっ…万年平社員、髪の毛も窓際だなって言われた…」
彼自身、口にするのも辛いであろう言葉に、ブルーは笑いをこらえるのに精一杯だった。
「それは酷い…誰に言われたのです?」
心にポッカリ開いた穴を優しい台詞で少しばかり癒された彼は、人混みを指差した。
「向こうから来た子に「どうしたお嬢ちゃん、迷子?」と聞いたら「あぁ? てめえの目は節穴か? 俺のどこがお嬢ちゃんだ! だから娘にも煙たがられるんだよ!」とか言われて…」
「はあ…」
お嬢ちゃんと間違えられる人物をブルーはよく知っている。が、彼はそんな事を言う人間ではないから違うだろうと思い直した。
「その人物の特徴は分かります?」
「身長は150あるかないかの可愛い子で、私の娘もそれ位なので中学生かと思い、話しかけたらそう言われ…」
「服装は?」
ブルーは嫌な予感がした。まさか、まさか…!
「薄い緑のハイネックに、ベージュの女物のブラウスを羽織ってました。だから勘違いしても仕方ないと思いません?」
「…そ…それは大変でしたね…私はこれにて失礼します…」
ブルーは平静でいようと努めたが冷や汗と真っ青な顔のせいで大丈夫かと声をかけずにはいられない。行きのしゃんとした姿勢とはえらく離れた動作でブルーが自分のいた所に戻ろうとすると、両イエローが突っ伏して男泣きに泣いているのが目に入った。
「ダブルイエロー、どうしました?」
「グリーンが酷いんだよー!」
叫ぶとまた、なんとかイエローは泣き続けた。カレーパワーをもってしても浮上できないようで、カレー皿がすぐそばに転がっている。
「清一さん、一体何を言われたんです?」
「俺っちは何も言われなかったけど、明美君が右近君にいつもとんでもないモン作りやがって、って。すっごく怖かったさー」
「…グリーンが?」
「うん、明美君が」
「…右近に、そう言ったんですか?」
「俺っちも聞き間違いかと思ったさ。明美君が食材の無駄だの頭を指差して、ココ、お前の方こそ大丈夫かァ?とか言ってすんごい冷たい雰囲気で…」
その時のことを思い出したのだろう、ホンゲダイエローは身震いをして酒を見つめた。
「これは明美君にとっては鍵なのさ、きっと」
「いい事言いますね、おそらくこれは彼の心の悪魔の封印を解く唯一の…」
ホンゲダイエローの手からコップがひょいと取り上げられる。ブルー、ホンゲダイエローがその先を見ると、奪った酒を一気に飲み干す、なんとかグリーンがいた。
「ああああ…」
ホンゲダイエローは突然の出来事に頭の中が真っ白になった。
「あーうめぇ…ヨオ、庵。元気してたかー?」
「はあ、ええ、まあ…」
ブルーは今どうするべきかその類希なる優秀な頭脳でもって計算していたが、答えを弾き出す前に爆弾は投下された。
「お前自分が一番てホントーに思ってんのか? あんた程度の奴なら世界中どこにでも転がってるぜ。たまたまあんたは会う機会がなくてよかったなァ。その自信を打ち崩されなくてよォ」
ブルーは次々と浴びせかけられる暴言に、返す言葉が見付からず放心状態。
「いつもレッドを馬鹿にしてるけど、キミ、紙一重だって分かってる?」
追い打ちをかけられ撃沈したブルーを一瞥したグリーンの攻撃の矛先はホンゲダイエローに向いた。
「やあ筋肉馬鹿! 相変わらずジムで鍛えてんのか? うちにも体力だけが取り柄の大馬鹿通販野郎がいるんだけどよ、馬鹿とハサミは使いよう、あれホントだな。ちょっと褒めればどんな労働もやってくれるし。あれ? 何で泣きそうなのかな? ひょっとして傷付いちゃったか? ごめーんな!」
ホンゲダイエローの肩をなんとかグリーンはポンと叩いて軽い足どりで次のターゲットの元へ向かった。
「土田さん、超問題発言して寝ちゃったよ…もう一人のグリーン君が一体…」
「やあグリーン!」
「ワァオ! グ…いや、明美君!?」
「うん。僕明美。君は?」
「え…? 前、自己紹介しなかったっけ…?」
「僕はしたけど君はしてない。でも皆に気付かれてなかったよね。なーんでーかなー?」
ホンゲダグリーンこと広河光が餌をねだる鯉のように口をパクパクさせると、なんとかグリーンは鼻で笑って魚雷を発射させた。
「透明人間」
ホンゲダグリーンは涙をこらえられなかった。
なんとかグリーンは、寝ているブラックに歩み寄ると思いきり頭を叩く。が、ブラックはうんともすんとも言わず寝息をたてている。
舌打ちした、なんとかグリーンは夢の中の住人にも容赦はなかった。