サクラチル…残酷無比!の戦い。
「起きろ変態」
側頭部に蹴りを入れる。
ゴッ…と鈍い音がしたが、ブラックは覚醒せず、そのかわりにいまだ宴会を続けていた残る者たちが異変に気付いた。
「おぉ、明美く…て、な、何を…?」
ドラリンは自分の目を疑った。なんとかグリーンの足元には、眠りから昏睡へ移行したブラック。
「見りゃわかんだろ? 蹴ったんだよ。大体なんで俺がこいつの家に行って掃除して洗濯してメシ作らなきゃなんね―んだよ。俺はこいつの女房か?!」
「羨ましい…」
「司令官、違うでしょ。」
ピンクの言葉で5秒間のマイワールドから帰ってきたドラリンは垂れたよだれを拭い、現実を直視した。
なんとかグリーンは大地に転がったブラックに笑いながら再び蹴りを入れている。
「ひどい酒乱だな。人格が変わっている。私の可愛い明美君が…」
「司令官のものではないでしょう。本人も知らないうちに溜まったストレスが爆発したんでしょうね。」
「ストレスねぇ…」
ホワイトの言葉に、ドラリン、ホンゲダレッド、ピンクはなんとかレンジャーの面々を回顧し、
(溜まりそうだな…)
なんだか目の前の悪魔が可哀想に思えてきた。
「しかし、放って置くわけにはいかんだろう。おい、明美君」
「何だよヤクザ」
呼びかけてきたホンゲダレッドを一瞥するなり、なんとかグリーンは言い放った。
「なっ……」
それは、彼の気にしている、かなりデリケートな部分だった。
「大の大人がチョコチョコ言ってんじゃねぇよ。犬が話せたら即、うぜえ、離れろ、って言われるぜ! 愛犬家なんて一歩間違や犬フェチだよな」
ホンゲダレッドは自分の頭の血管が切れた気がした。こらえきれず、拳を握り締めた、が、
「アンタが手を汚す必要はねぇ。」
振りかざされる前にその手を、なんとかレッドが止め、代わりに一撃を、なんとかグリーンの頬に入れた。
「あぁ…明美君の顔がキズ物に…」
「司令官、少し黙っていてください。」
心底悲しむドラリンに、ホワイトはにべも無く言葉を被せた。
殴られた当人は口の端が切れて垂れた血を乱暴に拭い、不敵な笑みをこぼした。
「力で来るのは能無しの証拠だぜ?」
その目は獣のようにギラギラと光っている。
無言で構えた、なんとかレッドの目も怒りに燃えていた。
「おもしれぇ…この一撃、のし付けて返してやるよ!」
なんとかグリーンの拳を、なんとかレッドは上体を反らしてかわす。
2人とも酒に酔っているにもかかわらず、その見事な一進一退の攻防戦は素面の人間にも引けを取らず、むしろ…
(酔拳!!)
その戦いを見守るものの頭上に、雷鳴と○ャッキー・チェンの顔が轟いた。