勝利の女神はあざ笑う

 

周りがなす術もなく遠巻きに二人の戦いを見守る中。

少しずつ、なんとかグリーンが押され気味になり、勝負の終わりが近付いたかに見え始めた頃。なんとかグリーンが、なんとかレッドの拳をかわしながら口を開く。

「なあレッド、前から思ってたんだけどよ」

なんとかレッドは突然話かけられたことに警戒し、間合いをとった。

「何だ」

「お前そんなに筋肉見せびらかしたいんなら、オイル塗ってボディビル大会でポージングしてろよ」

言い捨てた、なんとかグリーンに怒り狂った、なんとかレッドが突進し渾身の力を込めて右ストレートを繰り出す。

ドラリンはまるで自分が殴られるような錯覚を覚えて眉をしかめ。

ホンゲダレッドは仲間内で争うことのやるせなさと何も出来ない自分が悔しくて爪が食い込むほど拳を握り。

ホワイトは二人の戦いを目を反らさずに見ることが義務だと決心し。

ピンクはどさくさにまぎれてホンゲダレッドにしがみついた。

「バーカ」

言いつつ最小限の動きでそれをかわし、なんとかレッドの懐に入った、なんとかグリーンは薄笑いを浮かべる。

「甘いんだよ!!」

頭に血が上って正確な状況判断力と分析力を失うことを計算して、なんとかグリーンはわざと、なんとかレッドの怒りを買うようなことを口にしたのだ。

顎に綺麗な一撃を入れられた なんとかレッドは、にべもなく地面に崩れ落ちた。

「凄い…。善太は打たれ強いから、どんな奴でもダメージが大きいあごを打ったんだ!」

ドラリンの解説に、よくある格闘漫画のようだと明仁とホワイトとピンクは思ったとか思わなかったとか。

「さぁてと」

なんとかグリーンは土に転がる なんとかレッドに嘲笑とヤクザ蹴りを一撃食らわすと、ドラリン、ホンゲダレッド、ピンク、ホワイトに向き直る。

ドラリンはなんとかグリーンに駆け寄り、落ち着いて話し合おうと提案した。

なんとかグリーンはドラリンの首を見、笑顔で指差す。

ドラリンのチャームポイントである赤い首輪には、金の鈴が揺れていた。

「その首輪、素敵だなぁ」

「え」

「国家の犬って感じで!」

ドラリンの「マジで」という声とハモり、笑顔で言われた言葉はドラリンを徹底的に打ちのめす。

彼女は膝を抱えて前後に揺れ、自分の名前の由来となったロボットが出てくる某アニメのオープニングテーマをエンドレスで歌い続けた。

「お前、こんな事して何が楽しい!」

ホンゲダレッドの言葉に、なんとかグリーンは楽しくて仕方がないとでもいうように声高らかに笑った。

「何が楽しいって? 全部だよ! 普段から不条理な事してる奴に天罰、ってな!」

「でも何の罪もない人に貴方は…!」

ホンゲダレッドにしがみついたピンクの顔を、なんとかグリーンは腕を組んで覗き込んだ。

「な、なによ」

「厚化粧。鏡見たことあるのか? オカマ」

「な、な、な……」

言い淀むピンクのスカートをぴらりとめくって、なんとかグリーンはうわっ、と小さく叫んだ。

「すね毛くらい剃れよ! ストッキングでごまかせると思ったら大間違いだぜ」

ピンクの目が怒りに揺れる。手を高くあげ、なんとかグリーンに向かって振りかぶった。

「おっと」

平手打ちを寸差でかわし、なんとかグリーンはピンクの鳩尾に一撃を食らわす。ピンクは短くうめいてホンゲダレッドのそばに倒れた。

「ピンク!」

ホワイトは叫びつつ、なんとかグリーンをどうすれば止められるのだろうか思考を巡らす。

「新宿二丁目に転職しろよ、その方が天職だと思うぜ? なんてな、あーははは! って聞こえねーか、ねんねしてるしな」

明仁ことホンゲダレッドは唇を噛み締めた。こんな奴を野放しにしておくわけにはいかない。誰かが止めなければならないのだ。普段の、なんとかグリーンを思い浮かべていたために、踏ん切りが今までつかなかった。だが、もう許すことは出来ない!

「明仁さん!」

「止めるなホワイト、俺は、俺は…」

ホンゲダレッドは懐から取り出した閃光弾を作裂させる。光の中から現れたのは、いつもと変わらぬ姿のホンゲダレッド。

「へなちょこ戦隊ホンゲダバーリーダー…レッドだ!!」

「てか変身してないんですけど…」

ホワイトはホンゲダレッドが何を考えているのか謎だった。

「変身しようと思ったんだが衣装がなくて…いいんだ、気分の切り替えだから!」

そういう問題でしょうか、なんだか段々貴方が分からなくなってきましたよレッド…。と、ホワイトは心の中で独白した。

「へっ、格好も中身も変わらねえ、中途半端な奴だな」

「それはどうかな?」

言うなりホンゲダレッドが取り出したものは。

「そ、それは…『陽電子砲旧式モドキ参式』!!」

最小限の威力でも岩山一つ吹っ飛ばすホンゲダバーレッド専用の拳銃型荷粒子砲である。

ホワイトはまさかと思ってホンゲダレッドを縋るように見た。

「殺すつもりですか!?」

「ホワイト、お前、俺を何だと思ってるんだ…」

「あはは、すみません…」

爽やかにかわされた事に多少の不満を感じながらも、ホンゲダレッドは目の前の問題の方が重要だと思い直し、なんとかグリーンを見ると。

「ん? おい、どうした?」

「…んあ?」

なんとかグリーンは立ったまま右に左にふらついている。

「…あー、体動かしたから酔いが回った…寝み…」

その足どりたるや海中を漂うウミウシのようだ。

「も…駄目…」

暗黒帝王は呆気なく倒れたのであった。

 

    

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