夕焼け色の人と街

「レーダーからするとこの辺なはず…いた!右近君だ!」

ドラリンの指差す自分達の反対側の歩道、そこには なんとかイエローが!
ブルー・ホワイト・ホンゲダグリーン・ピンク・ドラリンは顔の色を失う。犬を抱えて精肉屋に入って行く なんとかイエローを目撃したのはもとより、その場面を目の当たりにしたホンゲダレッドの表情を見たからだ。
5人が鬼を目にした恐怖で硬直していると、一瞬後にはレッドからは表情が消えて代わりに口角が上がり、笑みをたたえたように見える。

(ヤバイ…キレた!)

その場にいた全員はそう察した。レッドの目が笑っていなかった…むしろ、その眼に殺意を見て取ったからだ。

「レッド落ち着け…っておい!?」

ドラリンだけでなくその場にいたものはホンゲダレッドの行動に目を見張る。懐から拳銃型の「陽電子砲旧式モドキ参式」を取り出したのだ。

「ちょっと待てー!」

慌てて司令官は、チャカを持ったヤーさんにしか見えない青年を、取り押さえる。

「放せ!あいつ、チョコを殺す気なんだ!カレーの材料にする気なんだ!」

ドラリンを押し退けレッドは反対側の歩道に向かって照準を合わせる。

「だからといってそれをぶっ放す奴がいるか!」

なおも殺気だつレッドを押さえ込むホンゲダメンバー。彼らも頑張ってはいたが、いかんせん、愛する者の命がかかっている人間に敵うはずがない。

「仕方ないですね」

なんとかブルーはその拳銃の威力を知らないため、なぜホンゲダの面々が必死で止めているのか理解し得なかったが、自分よりも先にカレー馬鹿に制裁を加えられてしまうのは癪なので、秘孔術を披露しようとホンゲダレッドに近付く。が、捕獲されていた彼は仲間を蹴散らし、走行している車という車をすり抜け、反対側の道路へ駆けて行った。
そんな飼い主馬鹿を、残された者達は呆然と見送った。

 

車道を突っ切って精肉屋の前に辿り着いたホンゲダレッドが見たものは。
肉屋の銘が入った袋を抱えて意気揚々とドアを開ける なんとかイエロー。

「あれ、明仁さん?どうしたん…」

次の言葉も待たず、ホンゲダレッドは なんとかイエローを右フックで吹っ飛ばす。
イエローは何が何やら理解し得ず、とりあえず怒り狂うレッドの打撃をかわすしかなかった…。

 

「あ〜あレッドの奴…始めちまったよ…。しかし右近君、よくあいつの攻撃をよけられるなぁ。レッドは全特殊部隊でも一、二を争う手練だぞ」

「なんでも家族揃って格闘馬鹿で、小さい頃から鍛えられたとか」

なんとかブルーは少し間違った情報を、余計な付加価値を付けてドラリンに与えた。

「格闘馬鹿ねぇ」

「格闘馬鹿です」繰り返すドラリンに、ブルーは真剣そのもので答えた。

ホワイト・グリーン・ピンクは、ブルーの本性が分かっていたので話半分に聞いたほうがいいと言おうとしたが、面倒だし面白くなりそうなので放っておく。
上司が上司なら部下も部下だった。

 

その頃なんとかレンジャー基地では、グリーンから離れると皆と意思の疎通が出来ないブラックと、カレー?を食べたことにより生死の境を彷徨うホンゲダイエローを看病する なんとかグリーンが、チョコを探しにいった連中からの連絡を不安いっぱいで心待ちにしていた。

「知らせがないのは良い知らせだね」

「…なんで…」

グリーンの言葉に、ブラックは首をかしげる。

「電話があるのってこの場合、イエローが見つかったってことでしょ」

無言で頷くブラックの表情からは、まだ疑問の念は消えない。

「見つかったってことは、それなりに罰を受けてからだよね。ブルーや明仁さんの、出て行く時の顔、見た?」

一言も発さずに、頭を左右に振る無口な男に溜め息を一つついて、グリーンは身震いした。

「あの時の二人の目といったら、この世にある拷問を全て受けさせ、なおかつ死よりも辛い責め苦を与えてやるって感じの…」

無事仲間が帰って来ることを願わずにはいられない。
でもイエローも自業自得だよね、皆に迷惑かけたんだからさ…と、さしものグリーンもちょっぴり思った。が、それはそれ、これはこれ。イエローの仲間として胸中穏やかではないらしい。

「早く連絡がきてほしいようなほしくないような…」

プルルル…プルルル…

言ったそばから鳴り響く突然の電子音に、グリーンは椅子から転げ落ちそうになった。唾をごくりと飲んで、そっと受話器を取る。

「…は、はい、もしもし…?」

―喉が乾いてチリチリする…―

グリーンは、まるで自分のこの緊張のしようは、断頭台に昇る前の死刑囚だ、と思い苦笑する。

「あ、明美君??」

普段どおりののんびりしたドラリンの声が、グリーンをひどく安心させた。しかし油断は出来ない。彼女は後ろでバスジャックが起きてようが目の前に放射能汚染の怪獣が現れようがきっとマイペースに我が道を行くのだ。

「ドラリンさんどうしたんです、何かあったんですか!?」

グリーンはよほど切羽詰まっている声を出していたのだろう、ドラリンも焦り始めた。

「ええ?べ、別に何もないぞ?何ゆえそんなに焦っておるのだ!?」

「イエローが殺されてないか気が気でないんです!」

「あー…」

意味ありげなドラリンの声が、グリーンの動揺を増長させる。

「あーって、あーって、ドラリンさん!」

「落ち着け明美君。誰もイエローを殺してないさ…今のところは」

「今のところは!?」

ドラリンの強調した単語を繰り返すと、電話の向こうで爆音とともに、コンクリの崩れる音がグリーンの耳に届いた。

「い、今の…」

グリーンの、受話器を持つ手が震える。

「うわオイオイ、あいつらマジかよ」

の言葉を最後に、通信が途切れた。不通を知らせる合図の音がグリーンの頭の中で木霊する。

「ブラック、清一さんを起こして、僕らも向かおう!」

そんな彼に、ブラックは一言。

「…どこに?」

「あ゛…どこだろ?」

ちょっぴり抜けてるグリーンだった。

「そうだ携帯、ドラリンさんにかけ直して居場所を聞けばいいんだ!」

ごそごそと鞄から、持ち歩き型公衆電話を取り出すグリーンはドラリンの番号を検索し、通話ボタンを押す。数回のコール音がし、出たと思ったら留守電だった。

「ただいま電話に出られない私の現在位置は○区××町△丁目。来られない人は発信音の後にメッセージ!」

何、この留守電…
グリーンは思ったが気を取り直し、とりあえずブラック(・ホンゲダイエロー)をお供に、留守応答が示す場所に向かった。

 

    

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