ギラギラ太陽たち
なんとかイエローは非常に困っていた。
なんで明仁さんが怒っているのか、さっぱりわからない、が、話をする暇もない。彼の猛攻撃は、よけるのが精一杯で、よけなければ相当痛いことになるだろう、とイエローは感じ取っていた。
しかし、これ以上ヒトの店の前で乱闘を続けさせるわけには行かない。彼は、決心した。
上段蹴りを左腕ではじき、後ろに跳んで距離をおき、構える。
怒れる獅子のごとき明仁は真正面から勢いをつけて鉄拳を突き出してきた。
「明仁さん、ゴメン!」
なんとかイエローは呟き、紙一重でそれをかわしてホンゲダレッドの懐に入り、彼の脇に手をやって、一気に後方へ投げ飛ばした。
見事に巴投げが決まり、ぶっとばされたレッドはそのまま精肉店の壁の一部とガラス戸を突き破った。
「ちょっとあんた、ウチに何の恨みが…?!」
乱入者に文句を言おうとした肉屋の主人は、驚きよりも恐怖で悲鳴をあげた。髪が乱れて顔にかかり、ガラスで切れた額からの血で顔を濡らしたコワ面のおにーさんを見て。
彼はゆらり、と立ち上がった。主人は失神寸前だった。
その時、この恐怖(もしくは仁侠)映画のような雰囲気にはふさわしくないものがやってきた。
それは、先ほど常連客の右近君がつれてきて、そのまま忘れて店において行ってしまった柴犬だった。
こっちに来ちゃ駄目だ、と主人が言おうとした時、
「…チョ…コ…?」
目の前の鬼神が口を開いた。
チョコ、と呼ばれたその犬は尻尾をちぎれんばかりに振って、彼の胸に飛び込んだ。
それは、堅い絆で結ばれた飼い主と愛犬との再会であった。
「…えー?」
「つまりはそういうことだったのだよ、右近君。」
呆然としている なんとかイエローは、肩を後ろからドラリンに叩かれて驚いて振り返った。
「そーかー。カヲルは明仁さんのワンコだったのかー」
納得しているように聞こえるその声には生気がなかった。その様をみて、皆はイエローのことが少しだけかわいそうに思えてきた。
……名前まで決めていたんだ……
しかし、一人だけは同情心の欠片も抱いていなかった。いや、彼の心には元々そのようなものは無いのかもしれない。
「まったく、手間取らせてくれましたね。」
同情心を持たない男、ブルーは、さて、どうしてやりましょうか…と呟き、残虐な思索をしようとしたその時、携帯が着信音を告げた。
舌打ちして通話ボタンを押す。
「どちら様ですかっ?」
「おう、オレだ」
「…レッド?」
皆は顔を見合わせる。そういえば。すっかり忘れていたが、なんとかレッドはイエローを探しに出たきり戻って来ていなかったのだ。
「イエローなら見つかりましたよ。今、どこにいるんですか?」
「あー、それなんだが、気付いたら北朝鮮まで来てしまった。帰るの明日になりそ」
話の途中でブルーは電話を切った。携帯電話が少しきしんだ音をたてた。