平和と宇宙と混沌と

「倉石さん、今の電話…。!?」

ホンゲダグリーンはそこまで言って、小さく悲鳴をあげている携帯を見。ブルーに話しかけたことをひたすら後悔した。が、ブルーは何ごともなかったかのように携帯をポケットにしまう。そして猫の皮を10枚ほどかぶった笑顔をグリーンに向け、一言。

「レッドからです。心配無用です」

皆はただただ、頷いた。

 

「本当、スミマセン…」

なんとかイエローが深々とホンゲダレッドたちに頭を下げる。彼は先程まで活気に満ちあふれていたのが嘘のように。定年後、何をすべきか分からずに街をさ迷い歩く親父さながらのオーラを発していた。
肉屋のおかみさんに手当てしてもらうホンゲダレッド。彼は愛犬をしっかりと抱きかかえ、無言の重圧と恨みがましい目でもって右近を威圧していた。ホンゲダグリーン・ホワイト・ピンク・ドラリンは「どっちもどっち」となかば中立的立場で二人の動向を見守っている。ブルーにおいては、こぼれんばかりの笑顔で仲間を見ていた。

「それで君はどうオトシマエをつけてくれるつもりなんですか?」

ブルーのその声に抑揚はなく、淡々と機械的に話されている…ようにホンゲダメンバーには思えてならない。

「…ここはやっぱり!特製カレ」

「イエロー」

イエローの発言を遮るようにブルーは呼び掛ける。彼は笑顔だったが、皆は恐怖を覚えた。そこには計り知れない何かが…いや。紛れもない殺意が、怒濤のごとく渦巻いていたからだった。

「情状酌量の余地なし…あの世で反省してきなさい」

一見慈悲深く聞こえる口調。だがその言葉は、地獄行きの片道切符だった。

 

「庵…手、はやすぎ」

ドラリンは唖然として肉屋の床に転がる人間を見下ろす。それは、魂が旅立ちかけた なんとかイエロー。彼女は死に瀕した彼を見て、先程のブルーの殺人技を思い出していた。

「ひでえ…」

ピンクは携帯に対応しながら殺人(未遂)事件勃発現場を目撃。一通り会話が終わり電話を切る。

「誰からだ?」

ドラリンの問いに、他メンバーはうんうんと頷く。

「んと、イエローの携帯から。明美君がかけてたんだけどね。今からそっちに行きます、って」

「はいぃ?何で明美君が居場所知って…あ!」

ポン、と手を叩いたドラリンは、自分の居所が分かるように、と携帯の留守電に自分の現在地を知らせる機能を付けたことを思い出す。

「そっかそっかー。ははーん、そーいえば…。美少年をさらおうと潜伏してたらいきなりお前らに強制送還されたもんな!何で私の現在位置を皆が知ってんだか疑問だったが、謎は全て解けた!」

司令官は、腰に手を当てふんぞりがえった。

「気付くの遅ぇよ」

間髪入れずホンゲダレッドのツッコミが出たということは、彼にいつもの調子が戻ってきたのだろう。

「何だよ、愛犬騒ぎの張本人のくせに」

ドラリンの台詞に、謙虚な姿勢で反省していたレッドは額に青筋を立てた。

「その台詞…」

言うなり彼が取り出だしたのは数枚の十センチ四方紙。

「ん?」

「司令官だけには言われたくなかったな!」

そう言ってレッドは窓を勢いよく開けた。その手で彼が投げた物を見て、ドラリンの態度が一変。死の淵を目の前にした人間のように顔面蒼白となった。鋼鉄の心臓を持つ彼女がそれほどまでに動揺するもの…。

「いやあああ!!私のコレクションが〜!!」

風に吹かれて個々の意思を持ったかのように飛んだのは、ドラリンの集めた衣装を着た少年達の写真だった…。

 

先程の留守応答が示した場所に向かうなんとかグリーン・ブラック、そしてブラックに担がれ黄泉の淵を彷徨うホンゲダイエロー。

「ぶわっ!」

グリーンが一刻も早く現場に行こうとして必死で地面を蹴っていると、顔に何かがくっついた。ので、思わずすっ頓狂な声を出してしまう。

「なんだこれ!?」

イラつきつつ顔に張り付いた紙をはがすと、そこには信じがたいものが写っていた。

「こっこっこっ…」

豆鉄砲食らった鳩〜むしろ鶏〜と化すグリーン。彼の顔は疑問符と冷や汗が浮かんでいた。

「?」

固まるグリーンの持つ紙を、ブラックが後ろから覗きこむ。彼はそれを目にした途端、意図せずグリーンの手から紙切れをひったくった。

「返してっ!」

グリーンが驚異的跳躍力でもってブラックから取り返したのは、かつてドラリンにさらわれた時〜トルコの民族衣装(女物)を着た、自分〜の写真だった。

「…何でグリーンがむきに?」

重い口を開いたブラックは、腑に落ちないのと微かな苛立ちを持ち、グリーンに詰め寄る。

「そ、それは…」

グリーンは困り果てた。この写真に写っているのは女装した自分。それだけならまだいい(?)。だがブラックは、ブラックは…!

「せっかくの萌えな子の手掛かり…」

グリーンは、その写真を絶対にブラックに渡してはいけない、と強く決意した。ブラックはこの写真を見せ、○ンダ○の社員に心当たりの有無を尋ねるだろう。気付く人は必ずいる。だから、これは渡せない。どんな事があったとしても。
次の瞬間、グリーンの頭の中は白紙と化す。悪夢のような光景。

「う…嘘だろおぉぉ?!」

グリーンは次から次へと飛んでくる地獄への招待状を死ぬ気で確保する。
その時、回収しきれなかった一枚が車道へ舞った。それを追いかけるように道路へ飛び出したグリーン。彼のすぐ右には、大型トラックと耳をつんざくほどのクラクションが迫り。グリーンは死の予感と恐怖に、強く目をつむった。
直後、自分の体が誰かに抱きかかえられ、宙に浮く錯覚を覚える。
痛みも何もなく、周りの音が再び耳に入って来ている…。その事実に気付き、グリーンは恐る恐る目を開けた。

「大丈夫かっ?!」

駆けてきたのは、先程の大型トラックの運転手。

「あ…」

グリーンが言葉が出せずにいると、彼の命を間一髪で救ったブラックが「大丈夫、仕事に戻って下さい」と言い。そして運転手が去るなり、ブラックはグリーンの脳天にチョップを食らわした。

「ブ…ブラック…」

「…グリーンの好きな子なら無理強いしない…もうあんな無茶するな…」

言いながらブラックはグリーンを抱き締めた。

「え…」

グリーンはブラックが勘違いをしていると知ったが、良い方の思い違いなのでいいか…と思ったそうな。

 

「アケミちゃん、メンマ君、その他美少年達がぁ!」

「アケミじゃなくてアキヨシ」

ホンゲダレッドは冷たい目で、床にうずくまるドラリンを見下ろした。

「よくも私の元気の源を〜!」

ドラリンの背後には陽炎ができ、彼女の怒りの度合いが伺える。

「まだあるぞ」

「すみませんでした」

レッドがスーツから写真を取り出すと、ドラリンは全てのプライドを捨て土下座した。

    

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