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「睦実、いいのか? 庵と話さなくても」
上官であるドラリンの言葉に睦実は、ゆっくりと首を縦に振る。
「『半年経つまで、司令とメンバー以外には会わない』。
そういう約束だったのに、司令はワガママを聞いてくださいました。
半日の外出許可を頂けて…それに、庵の顔を見られた。それだけで、十分です」
そう告げる睦実の横顔は、ひどく優しく温かみに溢れ、美しい。
睦実が庵のことをどれだけ大切に想っているか。
ドラリンは今更ながらに、再認識したのだった。
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「名取さん、来てくださったんですね」
「ああ」
明仁がカメラマンに絡んでいた時。
庵は、明仁のスーツのポケットにこっそりと紙を忍ばせた。
その紙片には、庵の行きつけのバーの名前と最寄り駅と、時間とが書いてあった。
来なくて元々であったが、明仁は律儀な性格なので、もしかしたらと思ったのだ。
すると案の定、書かれた場所と時間に明仁は、顔を出してくれた。
「来て、くださらないかと思っていました」
庵の言葉に、明仁は苦笑する。
「来るつもりはなかったんだが…もし俺が行かなかったらキミは、朝までどころか何日も待っていたろう?」
明仁の台詞に、庵は微笑むことで肯定した。
「なにが、聞きたいんだ?」
明仁は、庵に問われるであろう事を予測し、先手を打つ。
そうすることで、なにを問われても動揺しないように、心の準備をしようと思ったのだ。
「睦実は…元気ですか?」
「…ああ、元気だ」
「よかった…」
「だが、キミは一時期、元気ではなかったようだな」
明仁の指摘に、庵は素直に頷く。
「睦実が居なくなって…私の心は、死んでいたんだと、思います。
なにをしても楽しくないし、どんなものを食べても美味しいと思えなかった。
私にとって、どれだけ彼が大切であるのか。それを、この数ヶ月間で改めて知りました」
庵の告白に明仁は目を閉じ、始めに出された氷水を一気にあおり、返した。
「睦実が聞いたら、喜ぶ…と同時に、ひどく悲しむだろうな」
「…重荷、と思うから…ですか?」
不安を告げる庵に、明仁は口角を上げ、首を横に振る。
「違う違う。自分のせいでキミが体を壊したのではないか、と思ってしまうからだよ」
「…確かに睦実は、そう思ってしまいそうですね」
睦実は、とかく人に対しての思い入れが強い。
睦実を利用して、絶大な権力を手に入れようとした人間がいて、多くの人が、その企みのせいで犠牲になったことがあったからだ。
それは、睦実のせいではないはずなのに。
彼は、しばらく自分自身を責めさいなんでいた。
「それに、重荷と思うのならば睦実は、とっくにキミの側から離れているはずだ」
明仁の言葉で思考の海から引き戻された庵は、半ば焦りつつ返す。
「え…? そ、そう、ですか?」
「ああ、そうだ。だから、安心するといい」
言うなり明仁は、席を立った。
「さて、そろそろ戻らんと司令にどやされる。それじゃあな、倉石さん」
これ以上ここにいると、余計なことを話しそうになってしまう。
だから明仁は別れの言葉を告げると、さっさと店から出て行こうとした。
「待ってください名取さん…!」
「なんだ?」
「睦実に…伝えてくださいませんか?」
そんな明仁を引き留め、庵は頬を染めて続ける。
「早くあなたに会いたい、と」
想いをそのまま言葉にした庵に、明仁は眉を寄せた。
「キミは…時々、ひどく恥ずかしいことをサラッと言うな…」
その切り返しに、庵は気恥ずかしそうな笑みを向ける。
「睦実が絡んだ時だけですよ、こんなことを言うのは」
庵の正直な答えに明仁は微笑を隠し切れず、心からの感謝の気持ちを表した。
「ありがとう。キミの気持ち、伝えておくよ」
そう言われ、庵は明仁に深く頭を下げた。