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「やれやれ、騒がしい一日でしたね」

パーティーの後片付けをしながら、庵が独りごちる。

「でも、楽しかったじゃないですか」

「そーそー、一時は、どーなることかと思ったけどなぁ」

睦実の言葉に続けたドラリンに、庵は物言いた気な視線をぶつけた。

「なんだよ、私は帰りの電車を気にしなくて良いから、片付け手伝ってんのにさぁ…」

ガラスのテーブルを拭きながら愚痴る彼女の台詞を聞き、睦実は庵を見遣る。

「…別に、あなたがどうとかいう訳ではありませんよ」

妻に見つめられ、バツが悪そうに庵は呟く。ただ、自分は妻に、早くX'masプレゼントを渡したいだけなのだ。

「そーか? なんか、『早く帰れオーラ』を感じたんだがなぁ…」

当たらずとも遠からず。帰らなくても良いから、せめて10分くらい二人きりにして欲しかった。

「あ、そーだ。睦実、X'masプレゼントがあるんだ」

言いつつドラリンは、部屋の隅に鎮座していた仕事用の鞄から綺麗に包装された包みを取り出し、睦実に放る。

「わぁ…開けても良いですか?」

目を輝かせる睦実に、ドラリンは満面の笑みで頷いた。庵は先を越された悔しさに密かに舌打ちをする。
と、包みを解く睦実の表情が凍りつき、庵は自らの不機嫌さを気取られたのかと冷や汗をかいたが、睦実の視線はドラリンからの贈り物に向けられていた。

「…睦実?」

笑顔のまま動かなくなった彼女は次第に小刻みに震え出し、足をふらつかせる。

「なんなんですかコレは〜!!」

睦実、本日二度目の雄叫びであった。

「睦実、なにを渡されッ…」

駆け寄る夫を手で制し、睦実は半泣きでドラリンを睨む。ドラリンは、そんな睦実をものともせずに笑顔で耳打ちをした。

「ふぉっふぉっふぉっ、お二人の前途を祝しての贈り物じゃて、遠慮せずに使うがよい☆」

「…さ…」

最悪、と蚊の鳴くような声で溢した睦実は、包みを捨てるにも捨てられずに固く腕に閉じ込めるしかできずにいる。万一ドラリンに取り上げられ、庵の手に渡ったら、と考えると恐ろしい。
ドラリンのプレゼントは、レースで出来た、隠れる場所が殆んど無い上下のランジェリーだった。

 

「…睦実?」

ドラリンが気味の悪い笑顔で帰った後。ドラリンからのプレゼントを抱き締めたまま睦実はソファに座って、だんまりを決め込んでいた。庵は、そんな妻の様子に不安感を募らせ、声をかける。

「…なに?」

刺々しい口調で返され、庵は彼女の不快指数がかなりの高数値を示していることを察する。

「これ」

頭上から差し出された小さな紙袋を目にし、睦実はやっと庵と視線を合わせた。

「遅くなりましたけど、Merry X'mas」

睦実が袋の中から10cm四方の箱を取り出し開けると、シルバーで淵取られた白蝶貝の文字盤に、ピンクのベルトのクォーツクロックが、静かに時を刻んでいる。

「…きれい…」

白を基調として虹色に輝く盤の上を、秒針の銀が静かに移動していく。時計を手にし、裏を何気なく見た睦実は、刻まれた文字を読んで、弾かれたように庵を凝視する。

──私は、あなたと共に時を刻んで行きたい──

文字盤の裏には、英語で、そう刻まれていた。

「いや、その…私、ちゃんとしたプロポーズというか何というか、を、してなかったので…今更、ですが、その…ええと…」

色白な頬を真っ赤に染めながら、しどろもどろに話す庵が愛しくて、彼の想いが嬉しくて。睦実は思わず庵に抱きついた。

「ありがとう庵。すごく…嬉しい」

目に涙を浮かべて笑った睦実を見つめ、庵も、また笑顔になり。二人はどちらからともなく、唇を合わせた。

 

    

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